第43話王太子視点

「そう焦るな、レナード。

 万が一お前が負けたら、それこそヴィヴィアンをドルイガに奪われるぞ。

 お前の愛は、ヴィヴィアンがドルイガに抱かれたらなくなるような、そんなちんけなモノなのか⁈」


「違う!

 例えヴィヴィが家族のためにドルイガに身を任せようとも、俺の愛は変わらない!

 クリスチャンと婚約していた時だって、ずっとヴィヴィを愛していた。

 ヴィヴィさえ幸せになってくれるのなら、俺はそれでいいんだ。

 その事は殿下も知っているはずだぞ!」


「だったらそう焦るな。

 もっと落ち着いて連携を図れ。

 ヴィヴィアンが誇りを捨てて決断してくれたから、時間はある。

 時間はあるが、できればヴィヴィアンの名誉を守りたいのは余も同じだ。

 だがら時間を無駄にせず、しっかりと連携を覚えるんだ」


 やれ、やれ。

 この状態では、とてもではないがドルイガを追う事はできない。

 レナードの焦りは我々の敗北に直結する。

 我々の敗北は、帝国の滅亡につながりかねない。

 陛下や愚弟達は理解していないようだが、これは単なる番いの問題ではないのだ。


 皇国にあって独立色の強いミースロッド公爵家が、帝国の獣人貴族を全て懐柔して、帝国一の大富豪貴族と婚姻を結ぶのだ。

 これだけでも、帝国と皇国の戦力国力に危険なほどの差を生んでしまう。

 さらに帝国一の忠勇の猛将レナードが戦死してしまったら、もう帝国の凋落は誰の目にも明らかだろう。


 その時になって慌てても遅すぎるのだ。

 まあ、余がレナードを見殺しになどできないから、レナードが死ぬときは余の死ぬ時でもある。

 だからその時には、王位継承権争いと言うか、王太子位争奪の内戦も同時に勃発するから、間違いなく帝国が滅び、皇国による大陸統一が成し遂げられるだろう。

 いや、ドルイガかミースロッド公爵が帝国を滅ぼし、帝王を名乗る可能性もある。


「すまん。

 もっと真剣に集中してやる。

 だからもう一度最初から頼む」


「分かったのならいい。

 いいか皆、お前達なら分かっているだろうが、この戦いが帝国の滅亡に繋がる天下分け目の一戦なのだ。

 その勇者に選抜された栄誉を忘れず、個人の武勇や名誉に拘らず、どのような誹りを受ける事になろうと、必ずドルイガを仕留めるのだ」


「「「「「おう!」」」」」


 これでドルイガを斃したとしても、余の名誉は地に落ちるだろう。

 だが仕方がない。  

 だがここまでやって、愚弟や奸臣に陰口を叩かれるのは業腹だな。

 あいつらに罠を仕掛けて、ドルイガ達に始末さえる事はできないだろうか?

 陛下が余の思惑通りに上手く踊ってくれればいいのだが、中途半端に賢い所があるから難しい。

 さてどうしたものだろう?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る