第42話ドルイガ視点

「ドルイガ殿ですね。

 私は城代を務めさせて頂いております、アリオスと申します。

 御主人様も御家族も隠れ家に移動されておられますので、我々は降伏します。

 ハント男爵家の方々が誰もおられない事を証明する為に、屋敷の案内をいたしますので、どうか攻撃はお控えください」


 やれ、やれ。

 何とも手際のいいことだ。

 集められるだけの情報を集めたが、獣人貴族共はハント男爵を舐め過ぎている。

 事実だけを読み取れば、これくらいの事はやりかねない辣腕家だ。

 だが獣人貴族共の私見を加えると、とたんに運だけで成り上がったとか、ヴィヴィアンやアリアナの色仕掛けで成り上がった事になる。

 あんな屑共が同じ獣人だと思うと、怒りが沸騰してぶち殺してやりたくなる。


「ドルイガ殿、聞いておられますか?

 主人とヴィヴィアン様は、ドルイガ殿と正々堂々争って負けるのなら、正当な手続きでドルイガ殿と縁を結ぶことも考えておられます。

 現在王都に伝令用使い魔を送り、レナード様との離婚手続をしております。

 どうかハント男爵家の財産を破壊されませんように、御願い致します」


 腹立たしいほどの手際のよさだな。

 すでに俺がレナードと王太子のコンビを圧倒した情報を得て、最善の策を取って生き残りを図っている。

 どうせ俺が勝っても負けて、ヴィヴィアンもハント男爵家も生き残れるように、レナードと王太子を懐柔しているのだろう。


 ハント男爵家の掌で踊らされているようで、怒りで暴れ出したくなる気分と同時に、これほど有能な家と縁ができ、家族になれる喜びで踊りだしたくなる気分が身体中を駆け巡り、なんとも複雑だ。


「ドルイガ殿、聞こえていますか?

 城に残っているの者は、誰一人隠れ家の場所は教えられておりません。

 ですから尋問も拷問も無意味です。

 ですが、表にでているハント男爵家の避難場所や飛び地は全てお教えできます。

 財務記録も残っております。

 全ての写しを用意しておりますので、必要ならば引き渡しします。

 どうなされますか?」


 やりきれんなぁ。

 ここで無暗に暴れたら、ハント男爵はともかく、ヴィヴィアンに嫌われてしまうのだろうな。

 それは避けたいのだ。

 狂おしいほどヴィヴィアンが欲しいという暴力的な劣情と同時に、ヴィヴィアンに好かれたいという渇望もあるのだ。

 ハント男爵家は俺のそのような想いを知った上で、このような手段を使ってきたのだろう。

 しかも俺がどのような手段でヴィヴィアンを得ようとしたのかを見て、俺との付き合い方を決めるのだろう。

 

「分かった。

 全ての書類を王都に運んでもらう。

 そのために人間を用意しろ。

 城内の検分はするが、お前達が裏切らないと保証できる人質を用意しろ」

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