第65話

 結局、レナードはドルイガを殺せませんでした。

 必死で追撃したそうですが、二人の護衛役に阻まれてしまったそうです。

 二人組は連携が巧みで、勝つ事を放棄して、時間稼ぎに徹していたそうです。

 恐らくですが、ドルイガをとても大切にしていた者達だったのでしょう。

 命を賭して時間稼ぎに徹したそうです。


 とても追いつけないくらい引き離されていたそうです。

 レナードはそれでも諦めずに追いかけ、ミースロッド公爵領にまで入り込んだそうですが、ドルイガはミースロッド城に逃げ込んだ後だったそうです。

 デリラに追い込まれたレナードでも、単身ミースロッド城に乗り込むほど無謀ではなかったようです。


 レナードはミースロッド公爵領内に潜んでドルイガの首を狙ったそうです。

 ですがその機会は訪れませんでした。

 シュウガが非情の決断したからです。

 今回の戦争の責任をドルイガに取らせ、皇国の敗勢を挽回するために。

 

 ミースロッド公爵家は損害を恐れず、形振り構わない攻撃を行いました。

 帝国の奥深くまで攻め込み、帝都を包囲して城壁を突破して拠点まで築きました。

 皇国の貴族士族も奮起して、皇国領を占領していた帝国騎士団を追いだしました。

 帝国も皇国も、多大な人的損害を被りました。

 取り返しのつかない人命を幾万幾十万と失ったのです。


 特に損害が大きかったのが、戦争の原因を作ったドルイガの罪を挽回しようと、形振り構わない攻勢をかけたミースロッド公爵家でした。

 帝国に圧力をかけ、皇国に与えた損害を挽回した上で、帝王陛下と皇帝陛下に休戦を持ちかけたのです。

 原因となったドルイガを処刑するという条件で。


 手打ちの時期を探っておられた帝王陛下と皇帝陛下ですが、大損害を被った貴族士族を納得させるのは難しかったのです。

 ですが、休戦を反対していた帝国貴族が、ミースロッド公爵家の奇襲を受けて族滅の憂き目にあい、同じく休戦を反対していた皇国貴族が、王太子殿下率いる近衛騎士団によって族滅されました。


 これによって反対する者はいなくなりました。

 帝室と皇室の断固たる決意に恐怖を感じたのでしょう。

 これ以上反対すれば、問答無用で族滅させられると感じたのです。

 これでドルイガの命運は尽きました。


 ドルイガの処刑場は帝都の闘技場と決まりました。

 ドルイガが抵抗した時のために、魔獣の戦いを観戦しても大丈夫な、防御力の突出した闘技場が選ばれたのです。

 処刑に先立ち、ドルイガと戦ったことのあるレナードが、本人だと確認しました。

 皇室が送ってきた検視役も、ドルイガだと確認しました。

 ですが、私には疑念が残りました。

 ドルイガとして処刑された者の眼が、以前見た眼と違ったのです。

 番いの呪縛に捕らわれたドルイガとクリスチャンの眼は、あのような眼ではなかったのです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

男爵令嬢はつがいが現れたので婚約破棄されました。 克全 @dokatu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ