第17話

 哀しい事ですが、オースティン侯爵家が謀叛を起こしました。

 王太子殿下と私たちが学園にいる時に、獣人族による二度目の襲撃が大規模にありました。

 千を超える獣人族が、学園の全周囲から一度に襲い掛かってきました。


 学園を守る塀の外側には、王太子殿下を護る騎士達がいたのですが、獣人族の中でも跳躍力に優れた者が襲い掛かって来たので、大半の獣人族が騎士の護りを突破して、学園に入り込みました。


 最初獣人たちが襲撃してきた時は、私への襲撃かと思いました。

 覚悟をしていたにもかかわらず、ブリーレの私への暗い執着に、身も凍るほどの恐怖を感じました。

 ですが他の方々を巻き込むわけには参りません。

 特に王太子殿下とレナードを巻き込むわけには参りません。


 急いで御二人から離れようとしましたが、そうさせてはもらえませんでした。

 レナードは真剣な表情で、命を賭けて私を護ると、剣を捧げてくれました。

 王太子殿下は、よい訓練だと笑っておられました。

 側近や護衛の方々も、一切表情を変えずに、淡々と刺客を返り討ちにしておられました。


 ですが即死させていた訳ではありませんでした。

 後で知った事なのですが、中には即死した者もいたのですが、多くは半殺しにされていたのです。

 尋問をして背後関係を調べるために、手加減していたそうなのです。

 殿下とレナードは、本当に恐ろしいくらいの強さです。


 これも後で知った事ですが、彼らは王太子殿下ただ御一人を狙っていたようです。

 何故後で知ったかというと、あの時はそれどころではなかったのです。

 最初に話したように、オースティン侯爵家が謀叛を起こしたのです。

 クリスチャン様が御両親ははじめとする一族を皆殺しにして、オースティン侯爵家の権力を掌握し、獣人族による建国を宣言したのです。


 哀しく恐ろしい事ですが、人族と獣人族による覇権争いが勃発してしまいました。

 多くの困難を乗り越えて、草食系獣人と肉食系獣人が手を取り合い、そこに人間族も加わり、他国に類を見ない多民族国家を建国したと言うのに、それが全て無に帰してしまいました。


 その全てが、クリスチャンとブリーレの番いから始まったかと思うと、その呪縛に空恐ろしくなりました。


 その事に比べれば、王太子殿下とレナードの活躍など些細な事です。

 クリスチャンとブリーレはレナードに討ち取られました。


 正義のオースティン侯爵家と跡取りとして育てられ、一流の剣士であったクリスチャンも、レナードには全く歯が立たず、斬馬刀で一刀のもとに斬り殺され、帝都に晒されました。


 人大豚種のブリーレは、強力を誇る同族部隊を編成し、帝国騎士団を大いに苦しめましたが、レナードが陣頭に立って斬り込み、金棒で防ぐところを重装甲のフルアーマープレートとごと、斬馬刀で両断されたそうです。

 ブリーレも帝都に晒されました。


 多くの獣人大貴族を討伐された王太子殿下は、大将軍に就任されました。

 レナードは多くの勲章を授与され、大将軍格に就任した上に、一度に返上した一代辺境伯に代わって、世襲辺境伯に叙せられました。


 そして今日、レナードと私は結婚します。

 王太子殿下と一緒に大魔境討伐に向かう前に、戦死の可能性もあるので、ゴードン辺境伯家とハント男爵家の跡継ぎを残すためだそうです。

 なんと言っていいのか分かりませんが、討伐を逃れた獣人族のためにも、公明正大な二人には生きて戻って欲しいです。

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る