第34話

「何でしょうか、母上」


「貴女はこの陣容でドルイガを迎え撃てると考えているのですか?

 ヴィヴィアンを護り切れると考えているのですか?

 領地を転々を逃げ回る事が最善だと考えているのですか?」


 母上がとんでもない事を言い出しました!

 私を護るために、できる限りの準備をしてくださった母上が、まるで私を護ることが不可能だともとれる発言です。

 母上は一体何を考えておられるのでしょうか?

 さっきまでうれしそうに笑ていた父上も、顔をこわばらせています。


「母上が心配されている通りです。

 どれほど護りを厳重にしても、飛び地を転々と逃げ回っても、時間稼ぎにしかならないと思います。

 レナードが負けた可能性が高いです。

 生死は不明ですが、レナードが勝っていたら、ドルイガが王都屋敷を襲撃する事はできなかったでしょう。

 最善の方法は、ハント男爵家の戦力と財力を残した状況で、ミースロッド公爵家と縁を結ぶ事だと思われます」


 信じられませんでした!

 デリラが私とドルイガの結婚を認めるとは思いませんでした。

 いえ、結婚とは言及していませんね。

 私はレナードと結婚しているのですから。

 縁を結ぶと言うのは、不義の関係を結ぶという事でしょうか?


 それにしても、レナードが殺されたかもしれないというのが信じられません。

 あのレナードが負けるとは考えられないのです。

 ブリーレとの戦いでも、精強な獣人戦士を圧倒していたレナードです。

 相手が人虎種であろうと、負けたとは思えません。

 だから思わず会話に加わってしまいました。


「それはさすがにデリラの思い過ごしではありませんか?

 あのレナードですよ。

 王太子殿下も親衛隊も一緒だったはずです。

 いくら相手がミースロッド公爵家のドルイガでも、レナードと王太子殿下のコンビに勝てるとは思えません」


「お姉さまの気持ちは分かります。

 間違いありません。

 あのレナードが、お姉さまがおられる屋敷への襲撃を見逃すと思いますか?

 王都屋敷が襲撃された時点で、レナードが負けたのは間違いありません」


「まあ待ちなさい、デリラ。

 貴女はいつもの冷静さを失っていますね。

 レナードが負けた可能性は高いでしょうが、絶対ではありません。

 レナードの帰還前に、ドルイガが屋敷の襲撃に踏み切った可能性があります。

 レナードが負けたにしても、生きている可能性があります。

 レナードが生きていれば、必ず助けに来ます。

 それと、レナードが死んでいるのなら、王太子殿下も死んでいる可能性が高く、王都は大混乱に陥っているはずです。

 正確な情報を集めなさい。

 その上でどうしても必要ならば、ミースロッド公爵家と有利に縁を結ぶ方法を考えなさい」

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