第58話ドルイガ視点

「ま、ま、まって、待ってくれ、ドルイガ殿。

 わ、わ、われらが、我らが言い過ぎた」


「そうだ、ドルイガ殿。

 謝るから、謝るから許してくれ」


「そうだ。

 我らが悪かった。

 だがドルイガ殿に不穏な言葉があったのも確かだ。

 それを認めて皇帝陛下に陳謝してくれば何事もなく終わるのだ」


 グッシャ!


 ふん!

 俺が不穏な言葉を口にしたと認めたら、それを理由に俺やミースロッド公爵家を非難し処罰するつもりだったのだろう。

 誰がそんな見え透いた手にのるものか。


「皇帝陛下。

 これが戦場の死にざまでございます。

 私や獣人族と戦う、勇気ある人種の騎士や兵士が、皇帝陛下のために故郷を遠く離れ、妻子や父母を残して無念のうちに命を失う死に様でございます。

 御理解していただけましたか?」


「「「「「ヒィィィィ!」」」」」


 ふん!

 根性なしの臆病者どもが!

 今頃ようやく悲鳴を上げやがって。

 それに、臭いにもほどがあるぞ!

 獣人族は鼻がいいのだ。

 失禁はまだしも、皇帝陛下の前で脱糞までするとは、お前らの方がよほど不敬だ!


「なんという不敬!

 許しがたい失態!

 大の大人が、それも皇国の重職を担う大臣や側近は、たかだか遺体を見たくらいで失禁脱糞するとは、胆力がないのもほどがある。

 そんな根性で戦争の時代の大臣や側近が務めるとでも思っているのか?」


「もういい、やめよ、ドルイガ。

 このモノたちが、大臣の器でも側近の器でもないのはよくわかった。

 その方に言掛りをつけた罰を与えることを許す。

 戦場に連れて行って鍛えてやれ。

 戦場で死んでもこのモノたちの自己責任じゃ。

 だがその方の願いを鵜呑みにするわけにもいかぬ。

 出自はどうこう言わぬ。

 帝王が認めて王太子が気にかけるほど有能なのであろう。

 男爵や子爵の位を与えるくらいどうということはない。

 だが、有能だけに口約束でだけでは信じられぬ。

 忍びでいいから直接ここに連れてこい。

 そして人質を出させろ。

 それがミースロッド公爵家が常に口にする戦国の習いではないのか?」


 困ったな。

 皇帝陛下の言葉に間違いはない。

 ハント男爵家は、それくらい慎重に対処しなければいけない曲者一家だ。

 だがそれは、今までに人質を差し出したことのないミースロッド公爵家が、皇帝陛下に人質を差し出すことになるかもしれない。

 皇帝陛下はどこまで俺とヴィヴィアンのことを知っている? 

 俺が番いの呪いに囚われたことに気が付いているのか?


「人質を連れて帝国から出て、皇国に入り謁見しろと申されるのですか?

 それは少々厳しいと思われます。

 ではミースロッド公爵家に新たな従属爵位を御与えいただけませんか?」

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