男爵令嬢はつがいが現れたので婚約破棄されました。
克全
第1章
第1話
この瞬間まで、私は幸せでした。
身分的には微妙でしたが、金銭的には王族や大貴族に匹敵する家に産まれました。
やり手の父は、金で男爵位を買い、本当の貴族である子爵家から妻を迎えました。
それが私の母親です。
当時は金で買われた子爵家令嬢と、随分と社交界で陰口を叩かれたそうですが、結婚十六年の現在でも熱々の夫婦仲です。
男爵になってからも父の商才は衰えず、年々家財は膨らみました。
今では没落しそうな貴族家に投資して、領地の再開発まで請け負っています。
そんな父の手を借りようと、色んな貴族家が家にやってきました。
その中に一家に、オースティン侯爵家があったのです。
正義を家訓とする誇り高いオースティン侯爵家です。
父と母は、オースティン侯爵家嫡男クリスチャン様と私の婚約を決めました。
父の支援を得たい多くの貴族が、私や弟妹との婚約を申し込んでいました。
ですが父も母も、私たち子供を商売の道具にするような事はありませんでした。
商売と家族の幸せは厳格に分けていたのです。
だから私も弟妹も幸せな幼少期を過ごす事ができました。
その父と母ですら、正義のオースティンは別格でした。
余りに身分違いの婚約です。
男爵家は貴族ではないのです。
ただの士族でしかないのです。
爵とはついていますが、歴史的な問題と翻訳の問題で付いているだけなのです。
普通男爵家が結婚できるのは、上は子爵家で下は准男爵です。
それより上下するようだと、家格の問題で争いが起こります。
当人同士がどれほど愛し合っていても駄目なのです。
早い話、結婚しても一族内で虐めが起こり、幸せにはなれないのです。
よほど大きな後ろ盾があって、家格の釣り合う家に、養子や養女に入るとかしない限り、後々大問題になると言う教訓が数多くあるのです。
なのに、クリスチャン様と私は婚約しました。
子供たちをあれほど大切にしていた父と母が認めたのです。
それほどオースティン侯爵家の正義は勇名を誇っていました。
父も母も私も、オースティン侯爵家が約束を破る事は絶対にないと信じていました。
ですから父は、破格の条件でオースティン侯爵家に莫大な支援をしました。
踏み倒されたらハント男爵家が苦境に立つほどの支援額でした。
小国の国家予算に匹敵するほどの額でした。
オースティン侯爵家は瞬く間に立ち直りました。
正義を貫く為に経済的苦境に立っていたオースティン侯爵家が、正義に加えて経済力を手に入れたのです。
オースティン侯爵家とハント男爵家が手を結び、モラレス帝国の社交界を率いると噂されていたほどです。
それが、入学式のダンスパーティーで婚約破棄を宣言されるとは、誰が想像したでしょう!
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