第31話デリラ視点

「ウガッァァァァア!」


 遠吠えが聞こえます。

 ついに襲撃が始まりました。

 いつか襲い掛かって来ると思っていましたが、もしかしたらレナードが倒してくれるかもしれないと、少しは期待していたのです。

 ですが駄目でした。


 レナードは殺されているかもしれません。

 集めた情報によると、ドルイガの性格ならば、先に王太子親衛隊の女騎士を調べるはずです。

 その時に、必ずレナードと戦う事になります。

 レナードが御姉様を狙う者を見逃すはずがありません。

 どちらかが死なない限り、ここにはやってこないはずです。

 

 遠吠えが聞こえたと言う事は、レナードが殺された可能性が高いです。

 絶対と言い切れないのは、番いの呪いです。

 呪いの影響で、別人格になってしまってる可能性もあります。

 ドルイガも性格が変わり、先にここを襲撃してきた可能性もあるのです。


「デリラ、急いで隠しの間に行くぞ」


 父上の顔色が悪いです。

 どのような非常時にも表情を変えられない父上が……

 最悪の状態なのでしょう。

 いままで訓練以外で隠しの間を使った事はありませんでした。

 初めて御姉様が使われて、ついに父上と私も使うことになります。


「はい」


 ドッゴーン!


「ギャァァァ」

「ウギャァァァ」

「グギャ」

「オッギャァ」

「ゲッフ」


 玄関が突破されたようです。

 王家の城門にも匹敵するほど頑丈な扉が、こうも簡単に破壊されるとは!

 大金を投じて魔法で強化までしていたのに。

 今まで悪意ある者を誰一人通さなかった鉄壁に玄関が、破られてしまったのです。

 そして次々と断末魔が聞こえます。


 ドッゴーン!


 玄関から隠しの間までには、いくつもの隔壁と罠があります。

 ですが、どれも玄関ほどの強度はありません。

 玄関を突破できる敵が相手では、精々時間稼ぎ程度の存在です。

 ですがそのわずかな時間が、生死の明暗を分ける事になります。

 だからこそ父上は、ぞのわずかな時間の為に大金を投じてきたのです。


「父上様!

 デリラ!

 いよいよなのですね」


「敵だ。

 転移魔法を使う」


 隠しの間に入ると、顔色を変えた御姉様が話しかけてきます。

 父上が時間を惜しむように、走りながら話しかけ、そのまま直ぐに転移魔法を起動させます。

 もう転移魔法独特の嫌な感覚に襲われます。

 一度きりしか使えない、最後の切り札です。

 何度も使えてしまうと、追撃されてしまいますから、使い捨ての転移魔法です。

 だからこそ、家族全員が一緒に使わないと、誰かが見捨てられる事になります。

 今回は三人一緒に使えてよかったです。


「直ぐにこの部屋を出るぞ。

 できるだけ早くアリアナと合流しなければならん」


「「はい」」


 そうです。

 母上と合流しなければなりません。

 今度逃げる時は、家族四人一緒です。

 誰かを置いて逃げる事などできません。

 だからこそ、今回は本領地の城に転移したのですから。

 

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