第39話 痛みがあるから、生きている?
ぐっと力を入れ込んだ。
血が滲まない代わりに、痛みを覚えた。
当たり前かもしれない。
僕が握り締めているのは、
「何やってるの?」
見れば、私と俺が怪訝な顔で僕を見ていた。
「え、見れば分かるでしょ?」
きょとんとして、僕は利き手を見せる。
「鋏を握ってるんだよ」
手には鋏が握られていた。
力を入れたままだから、鋏は手に食い込んだままだった。
「聞いてるのはそっちじゃなくて、」
「?」
「なんでそんなことしてるかって聞いてるんだけど」
僕の利き手を見ながら、私は顔を顰めた。
「実験だよ」
「実験?」
「痛みがあるかどうか」
手を広げれば、鋏の跡がくっきりと残っていた。
「なんでそんな実験してるの?」
「……確認?」
「確認?」
「生きてるかどうか」
言いながら、僕は俺を見た。
「やってみる?」
「なんでだよ」
「それがあるから」
視線は死体へと戻っていく。
「……痛みがあるからって生きてるかどうか分からないだろ」
呆れた様子で、俺はため息を吐いた。
「死体があるからどうとも言えないな」
「……」
「ただ、普通に動けるし、意識もあるし、……幽霊っていう自覚もない」
言いながら、自分の刺殺体を見下ろした。
「少なくとも、俺は生きてるんじゃないか?」
自分の死体がある状態で、動いている自分がいる。
傍から見たら、おかしな状況だった。
滑稽にも思えた。
「まぁ、俺が生きてるかどうかなんて些細な問題だろ」
首を振って、俺は僕と私を見返した。
「問題は俺が一人目の被害者だったてことだろ」
「なら……」
「除外されるね」
私の言葉を引き継ぐ形で、僕は言った。
「そうだな」
俺は頷いた。
「俺が言っていた西暦」
三人は言い合っていた。
誰の西暦が、今の年月に近いのかと。
カレンダーもなく、互いの主張のみで西暦が考えていたが。
どうも、西暦が噛み合わない。
――俺が口にした西暦は、僕にとっては五年前で、私にとっては二年前だった。
――私が口にした西暦は、僕にとっては三年前で、俺にとっては二年後だった。
――僕が口にした西暦は、俺にとっては五年後で、私にとっては三年後だった。
だけど、これで一つ除外できる。
何故なら、俺が口にした西暦は、
「消去法だな」
過去そのものだからだ。
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