第26話 それはまるで夢のようで、
それはまるで夢のようで、
現実味のない出来事だった。
「……疲れた」
仕事疲れが原因で、思わずポツリと呟いた。
化粧を落とせばいいのかもしれないけど、
今はとりあえず、買ってきた市販の弁当を食べたい。
けど、やっぱり化粧した顔が気になって、
渋々化粧を落として、着替えて、
弁当を食べながら、テレビを見る。
ニュースを見ながら、気兼ねなく寛ぐ一時。
それが、『私』にとっての日常だった。
なのに、何故、
「なんで、こんなことになってるの……?」
浴槽に頭まで浸かり込んで、
溺死している、『私』がいた。
仕事で疲れているだけだった。
つい入浴中に気を失って、それで、
そう思えたら楽だったのに。
死んだのは自己責任だと、
諦めがつくのに。
だけど、これが自己責任じゃない。
うっかりが招いたことじゃない。
『私』は、殺されたのだ。
気を失って死んだなら、口にガムテープなんて貼ってない。
両手両足が縄で縛られたりなんか、していない。
誰が、なんで、
どうして、『私』が、
疑問が駆け巡りながら、『私』を見ているのは、
カチッ。
「もうそんな時間?」
眉を寄せながら、振り返れば、
そこはもう風呂場ではなく、
見慣れたリビングに、なっていた。
ため息を零した時。
「疲れた……」
言いながら入ってきたのは、
数週間前の『私』自身。
数週間後、死ぬのも知らずに仕事疲れに参っている。
そんな姿を見ているのは、
数週間後の未来の≪私≫そのものだった。
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