第8話 残ったものは、

 ――死体の顔が自分の顔だった。

 それが信じられず、思わず瞬きをした。


 そして、気付く。

 誰かいる。

 自分以外、死体だらけのこの部屋に。

 目が合った。


「え」


 相手も動揺しているのが分かる。


「なんで、いるの?」


 自分の台詞だ。そう言いかけた時、

 誰かが居間に入ってきた。

 その誰かもまた、自分たちを見て微動だにしない。

 だが、その誰かがポツリと呟いた。


「なんで、ないの……?」


 その言葉に、ハッと我に返る。

 慌てて周囲を見渡して、くまなく探す。

 そして、気付く。


 この部屋の中には、三人の人がいる。



 首を吊って死んだ筈の『僕』と、

 浴槽で溺れて死んだ筈の『私』と、

 大量の血を流して死んだ『俺』――――




 代わりになくなったものがある。 


 悪臭漂う首吊り死体、

 浴槽に浸かり込んだ溺死体、

 そして、壁に背中を預ける出血死体、


 全部、消えていた。


 あとに残されたのは、呆然と立ち尽くす、

 生きた三人だけだった。


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