第16話 可能性の話なら、

 三人の手紙が、同時に見つかった。


「枚数的には、僕が多そうだけど……」

「枚数なんかどうでもいい」


 切り捨てるように、『私』は言い切った。


「問題は、なんで私達の手紙がここにあるのかってことでしょ」

「……なら、考えられる点を挙げてくとか?」

「推測ってことか?」

「他にやりようがないし」


 数秒、間まがあった。


「可能性は低いけど……」


 手を挙げたのは、『僕』からだった。


「一緒に住んでた、とか」

「ないだろ」

「ないでしょ」


 即決だった。


「ルームシェアとか、私が無理」

「そもそも、三人で住むには狭すぎるだろ」


 『俺』の言う通りだった。

 この部屋は、あくまで一人の居住スペースだけだった。


 とても三人が住める場所ではなかった。


「なら、他は?」

「ここに住んでたとか」

「それはさっき却下したでしょ」

「いや、一人で住んでたって話だ」


 三人で住んでいないなら、一人で住んでいたなら?


「なら、自分の家に手紙があって不思議じゃないだろ」

「理屈は分かるけど……」

「だったら、なんで他人の手紙が出てくるのよ」

「それは……」


 答えに詰まってしまった。

 可能性はなくはないけど、これにも疑問が生じてしまう。


 自宅から自身の手紙が出てくるのはいいとして。

 何故、他の二人の手紙や葉書まで出てくるのか。


 確証はないものの、三人共知り合いではない。

 そんな気がするのだ。

 少なくとも相性がいいとは言い難く。


「なら、他にどんなのがあるんだよ」

「私? 私は……」


 考えて、思い至る。


「家主が私達にとって共通の知り合いだったとか」


 当たり障りのない答えだった。


「私達が知り合いじゃなくても、家主自体が連絡を取り合ってて……」


 説明しているのに、何故か『私』は言い辛そうにしていた。

 気付いていたからだ。


「だから……」


 言葉が途切れた。

 そして、酷く渋い顔で、自分の答えを却下した。


「ないわ、これ」

「確かに」

「そうだな」


 他の二人も同意見だった。


 一番可能性がありそうな答えだった。

 事実、前にも似たような可能性が『俺』からも出ていた。


 だけど、今は違う。


 名も顔も知らない『家主』が共通の知り合いだった。


 そんな可能性が一番無難で、あり得そうなのに、

 三人共それはないと、何故か確信していた。

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