第17話 「会話があれば、」と、考えた

 どれも可能性の域を出ない。

 だから、会話が途切れてしまった。


「……」

「……」

「……」


 息苦しい。

 そんな空気だった。


 久しぶりだった。

 もしかしたら初めてかもしれない。


 今まで会話があったから、こんな空気にはならなかったのだ。


(会話があったら……)


 そんな風に考えた。

 現実逃避でも、突破口でも、

 どちらでもいい。


 会話があればいいのだ。

 会話があれば、


「あ……」


 ふと、目に入る。

 自分の手の中にある手紙や葉書の量。

 ざっと見たけど、『俺』や『私』のものは少なそうだった。

 逆に、『僕』の手紙は圧倒的に多かった。


 よほど、『僕』は手紙を書くのが好きだったのか。

 それとも性に合っていたのか。


 今はどらちでも構わなかった。


 『僕』は無造作に手紙を広げた。


「何やってんだよ」

「手紙を読んでる」


 怪訝な顔をする『俺』に、『僕』は答えた。


「いや、見れば分かる」

「なら、何?」

「なんで手紙を読んでるかって聞いてるんだよ」


 意味がないだろと言いたげだった。


「会話を広げようと思って」

「は?」

「広げてどうするのよ」


 どうするもこうするも、なかった。

 強いて言えば、


「読めば分かるかなって思って」

「何が?」

「『僕』が」


 手紙には些細な日常が綴られていて、

 書くことがなかったからとも考えられたけど。


 だとしても、手紙を書く『僕』は、今の『僕』には新鮮だった。


 会話を広げれば、

 手紙の中の『僕』を知れば、


 息苦しさを、覚えなくなるかもしれない。


 閉塞感が、何より嫌だったのだ。

 それが何より『僕』にとっては――


「……あれ?」


 今の思考に、妙な既視感を覚えた。

 手紙に気付いた時よりも、この感覚はある意味身近で、

 

 覚えのある感覚だった。


「……?」


 どうも引っかかる。

 

 どこでこの感覚を覚えたのか。

 一体、どこで――


「……あ」


 そんな状態で、手紙を読んでいて、


 目についた。

 

 その文章が、


「……」


 無言のまま、『僕』は手紙を手放した。

 そのまま、『僕』は『ある物』を手に取った。


「お、おい……」

「何してるの……?」


 戸惑う二人の声が聞こえた。


 『僕』は分厚くて、太い縄を手に取って、

 自分の首を、縛り上げていた。


「思い出したんだ」


 独り言のように、ポツリと呟いた。


「そういえば、僕は、」


 縄を縛り上げ、


「死んでたんだった」


 『僕』の意識は掻き消えた。

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