第45話 娯楽がないから、楽しめる。

「身勝手ね」

「自分で言うか?」

「確かに」


「だって、身勝手じゃない」


 まるで映画の感想を言い合うように、

 私は俺を殺した理由を観た感想を口にした。


「耐えきれないから、殺したのよ? ずいぶん身勝手だと思わない?」

「否定はしないが、殺した側がそれ言うか?」

「殺した側だからこそ言えるのよ」


「自信満々で言うことじゃないと思うけどね」


「でも、おかげですっきりしたわ」


 殺人現場を観た私は晴れ晴れとした表情で言った。


「こんな理由で殺したのね、人を」


 疑問が晴れて、すっきりとした様子だった。


「そう思わない?」

「俺に聞くか、普通」


 殺した側が殺された側に意見を求めている。

 実に奇妙で、狂った状況なわけだが、


「まぁ、分からないよりはいいか」


 生憎、それを指摘する三人ではなかった。

 狂った状況に置かれ続けていたのだ。


 正気のまま、彼らは狂っていた。


「なら、僕も」


 挙手するように、僕も手を挙げた。


「僕も見てみたいんだけど」

「何を?」

「僕が殺された理由」


「俺だろ? 殺したの」

「殺した理由、思い出せた?」


「いいや、まるで」

 

 テレビの録画を忘れてないかという気楽さで、

 それを忘れてしまったという態度そのもので、


「まるで、思い出せない」

「そっか」


 ほんの少し残念そうに言いながら、


「なら、再現してくれないかな?」


 興奮を隠せない様子で、僕は部屋を見た。


「ご都合主義が一度起きたんだ。二度起きても困らないでしょ」

「確かに」

「そうだよな」

 

 僕の言葉に、私と俺は頷いた。


 何せ、この部屋には何もない。


 話題のネタになる話もなく、

 娯楽がない。


 だからこそ、三人は、


 カチッ。


 不快な音を耳にした。


 見れば、また誰かが、誰かの生活を見ている。


「俺だ」

「僕だ」


 今度は部屋の主が僕で、見ている側は俺だった。

 自分が殺される一部始終を見せられているのに、


 三人は酷く楽しそうだった。


 当たり前だ。

 この部屋には娯楽がない。


 だからこそ、三人にとって、これはある種の、

 

 娯楽そのものだった。

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