第25話 覚えがないから、否定する。
「……あれ?」
気付くと、僕は誰かの首を縛り上げ、
殺していた。
「……!」
思わず突き飛ばすように、死体から離れた。
我に返って、死体を見たものの、もう遅い。
死体は、死体のままだった。
「なん、で……」
覚えがない。
僕は誰かを、殺した覚えがない。
なのに、手の平についた縄の跡が、
強く握った感触が、
目の前の死体が、
明確に教えてくれる。
僕が誰かを殺したのだと。
「違う……」
それでも口に出たのは、否定の言葉だった。
「違う、違う、違う」
証拠があるのに、
僕は必死に否定した。
当たり前だ。だって、僕には、
「覚えがないんだ……」
縋るような、言葉だった。
カチッ。
聞き覚えのある音が、耳に届く。
直後、景色が暗転する。
次に目を開けた時、
僕の目の前には、
見知らぬ彩りに満ちていた。
死体は消え、僕の部屋にあった家具も全部、
なくなっていた。
代わりに、別人の部屋に仕上がっていた。
僕の部屋になかった機能性と実用性を兼ねた家具が、
それでいながら、部屋全体が明るく、
部屋を、彩っていた。
「ここ、どこ……?」
思わず言ってしまったのは、仕方がないと思う。
そんな疑問に答えてくれたのは、
鍵を開ける音だった。
振り返れば、家主が部屋に入ってきた。
「ああ、そっか……」
諦めにも似た呟きが、零れ落ちた。
ここはもう、僕の部屋じゃない。
ここはもう、
「疲れた……」
『私』の部屋になっていた。
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