第2話首を吊って死んだのは、

カチッ。


訳が分からず、逃げようとした。


カチッ。


その度に、『僕』は。


カチッ。


いつの間にか。


カチッ。


また誰かの首を絞めていた。


カチッ。


次第に、『僕』は慣れていく。


絞殺された死体に。

血だらけの死体に。

風呂場に髪を漂わせる、溺死した死体に。


麻痺していったのかもしれない。

人間、慣れていけば順応していく生き物だ。

不謹慎でも、『僕』は逃げるのをまず止めた。


そして、『僕』は手始めに遺書を書いた。

誰の? それはこの三人の死体の。

生前書いたと見られる手紙やら葉書やら見つけた。

それを真似て、遺書を書く。


――無理心中をした。


そんな風に見せかけるため。

そんな幼稚な小細工で、警察の目を欺けるなんて思ってない。


そこまで、『僕』も馬鹿じゃない。

ただ、通報して、警察が来て、隙を見て、逃げ出せば。


逃げる時間は稼げるんじゃないか。


誰かがあの玄関を開けないと。

『僕』は、逃げられない。


幸い、大家さんの電話番号らしきものが書かれたメモがあったから。

電話すればいい。

律義に警察に通報する必要もない。


感覚が麻痺している。

その事実に目を背け、『僕』は遺書を書いた。

誰の文字かもわからず、理解もせず。

逃げることだけを考えて。


遺書を、書き上げた。


適当な場所にそれを置いて、ほっと一息を吐く。

そして、血に塗れた電話の受話器を取って。


カチッ。


また『僕』の意識は暗転した。

『僕』は気が付くと、何故か。

部屋の中で、首を吊って、自殺しようとしていた。


驚いて、もがいても首が絞めつけられるばかりで。

次第に意識が遠のいていく。

殺人の次は自殺。

だけど、『僕』は死にたくない。

そう思って、ふと気づく。


「……いない」


床に転がっていた筈の、絞殺された死体。

その死体がどこにもない。


「なん、で……」


溺死した死体はある筈だ。

目の前には、大量出血した死体もある筈だ。

だけど、遠のく意識の中で確認もままならず。


『僕』はそのまま、『自殺』した。


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