第22話 綴っているのは、

 『僕』の日常は単調だ。

 

 家を出れば、講義を受けて、

 課題が出れば、レポートをこなして、


 晩御飯はコンビニか、自炊で済ませてしまう。


 ありふれた、学生だった。


 なるべく、家族に迷惑をかけたくなくて、

 家族は渋い顔で反対していたけど、


 格安なマンションの一室を借りた。


「あそこかよ……」


 友人にも変な顔をされた。


「変わってるよな、お前って」


 よく言われる言葉だった。

 『僕』自身、意識したことはないものの、


 『僕』は、変わっているらしい。

 特に連絡手段がそうだった


 『僕』は手紙をよく綴る。


 急ぎとか緊急とかなら、

 携帯電話を利用するけど、

 基本は手紙だった。


 両親の教えかといえば、そうでもない。

 単に、手紙の方が慣れている。


 それだけの理由だった。


「手紙とか、面倒だろ」

「そんなことはないよ」

「そうか? 携帯の方が楽だろ」

「そうだけど、」


 『僕』は首を傾げながらも、


「少なくとも、感情は手紙の方が良く乗るよ」


 そんな話をした記憶があるくらいだった。

 手紙は定期的に、家族に綴る。

 心配されることはないと、


 言うためだった。


 なのに、生活にも慣れてきて、

 数か月ぐらい経った頃、


 『僕』は手紙を書かなくなった。


 違う、書いていない訳じゃない。

 家族に、友達に、

 送っていないだけだった。


 手紙を書けば、感情が乗ってしまい、

 どうしても、郵便局に足が向かなかった。


 手紙は書くだけ書いて、引き出しに入れていく。

 溜まる一方の手紙は、

 まるで、日記のようだった。


 手紙を書くことで、感情の捌け口を探している。

 そんな感覚になっていく。

 麻痺している。

 そんな自覚はあった。


「……あ、飲まないと」


 ――それから、

 数か月前とは変わったことがある。


 『僕』は寝る前にいつも、

 睡眠薬を処方するようになっていた。


 眠れないからだ。


 そんな単純な理由だった。

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