第21話 真似事だって、飽きてしまう。

 どこかの探偵みたいな真似事をしてみたけど。

 そこまで実りのある物があるわけじゃなかった。


 そもそも調べようにも、≪僕≫には『制約』があった。

 それは――


 カチッ。


「またか……」


 溜め息混じりに呟けば、景色は一変する。


 家具もない空っぽの部屋に。

 そして、玄関が開く音と同時に、


「疲れた……」


 『僕』が現れる。


「早く母さんに連絡しないと」


 手紙を取る『僕』の姿を見つめた後、

 ぐるりと周囲を見渡した。


 何もない空間になった。

 それは『ここ』が数か月前まで巻き戻った証だった。


 信じられないような出来事も、

 何回も経験すれば、

 否が応でも実感してしまう。


 ≪僕≫はこれを『タイムリミット』と呼んだ。

 『タイムリミット』がいつ訪れるのか、≪僕≫自身分からない。


 『僕』が死んだ時、掛け時計も壊れていて、

 時間を計るのもままならない。


 体感的には、


 短い時は一分、

 長く感じた時は、三十分ぐらいだった気がする。


 ≪僕≫は『タイムリミット』を気にしながらも、

 ひたすら≪僕≫は『僕』が死ぬのを待って、


 死体になった『僕』の部屋を、≪僕≫なりに調べ上げた。


 分かったことは、そこまで多くないけど。

 殺されたことは、≪僕≫にも分かった。


 そうすると、あの「なんで」は殺されたことへの無念だったのだろうか。


「……」


 どうも自分の性格からしてしっくりこなかった。


「死んでもこんな感じだしな……」


 ≪僕≫自身、自分が何なのかと言われたら首を傾げるしか方法がない。

 

 幽霊とか地縛霊とか悪霊とか。

 そんな類のものではないと思いたい。


 強いて言えば、意識の残滓みたいな感覚が近いのかもしれない。

 幽霊と何が違うのかと言われたら困るけど。


「……書けた」


 考え込んでいたら、満足気な声がした。

 『僕』だった。


「今日にでも郵便局に出して……」


 あれこれ準備する『僕』を見て、ふと思いつく。


「『僕』を観察すれば……」


 正直、死体の身の周りは大体調べたから、

 これ以上、何も出てこない気がする。


 なら、数か月前――死ぬ前の『僕』を見ていたら、

 何か分かるのではないか。


「……違うか」


 半分はそうだけど、もう半分は違う。

 はっきり言って、飽きたのだ。


 『僕』の死体を見ることに。


 だから、飽きが来ないようにするために、

 

 ≪僕≫は『僕』の日常を、観察することにした。

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