第20話 納得したから、湧いてきた。

 別に≪僕≫は正義感に駆られて、『僕』の死を悼んでいるわけじゃない。

 気付けば、『僕』の死体が目の前で吊るされていた。

 最初は何が起きているかなんて、分からなかった。


 ただ、何故か悪臭と、苦しみ歪んだ『僕』の顔を見て、

 

 唐突に理解した。


「ああ、僕死んだんだ」


 目の前に自分の死体があったら、

 もっと絶望するとか。

 悲しむとか。


 色々ある筈なのに、

 理解しただけで、納得しただけだった。

 単に、呆然としていたからかもしれないけど。


 とりあえず、≪僕≫は『僕』の死を受け入れた。


 ――いや、違う。

 一個だけ、降って湧いてきたものがある。


 ――なんで?


 生憎、≪僕≫には死ぬ前後の記憶がない。

 ただ、曖昧な疑問だけが、≪僕≫の中にある。


 ――なんで?


 死の直前、『僕』は確かにそう思った。

 何に対して、『何故』と投げかけたのか。


 何故、自分が『自殺』したのかという『なんで』なのか?

 それとも、何が起こったのか分からないという意味合いの『なんで』だったのか?


「……」


 どれもこれもしっくりこない。

 死の間際、『僕』は何を思って、「なんで」と呟いたのか。


 ――知りたい。


 『僕』の敵討ちとか、犯人捜しとか、


 そんな大層な考えなんかなかった。

 ただ、≪僕≫は『僕』の疑問を解消するために。


 首吊り死体を、調べることにした。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る