第23話 疲れてないから、大丈夫。
疲れているのだろうか。
最初はそう思っていた。
晩御飯を食べて、
片付けをして、
電気を消して、
眠ろうとする時。
誰かに首を絞められるような、
息苦しさを覚えた。
慣れたと言っても、無意識に疲れが出てくるなんて、
当たり前で、ありふれた話だった。
だからきっと、これもそうなのだろう。
そう思って、最初は気にも留めなかった。
だけど、日に日にその息苦しさに眠れない時間が続くと、
寝不足になった。
眠れないなら、昼間寝ればいい。
そう思って、目を閉じても、
またあの息苦しさが襲ってくる。
次第に『僕』は眠るのが怖くなっていった。
無理に目を閉じても、
閉じた瞬間、首にひやりとした手がかけられるような、
錯覚を覚えてしまい、
勢いよく目を開け、周囲を見渡した。
――誰もいない。
分かっている。
この部屋には『僕』以外、誰もいないし、住んでもいない。
分かっているのに。
『僕』は眠れないまま、講義を受けて、
居眠りをしてしまうことが多くなってしまった。
自己嫌悪に陥った。
かと言って、眠れないまま、講義を受けても、
何も頭に入ってこない。
「おい、大丈夫か、お前。なんか顔色悪いぞ」
友人に心配される始末だった。
大丈夫としか言えなかった。
それが虚勢だとは分かっていたけど。
大丈夫を大丈夫にするために。
『僕』は睡眠薬を処方してもらうようになった。
処方された通りに、睡眠薬を口にして、
目を閉じれば、
無理矢理眠ることができた。
時折、あの息苦しさが襲ってくるけど、
眠れるなら、大丈夫と言えるなら、
何でもよかった。
いっそ、このまま眠れたままならいいのに。
そんなことを思っていた。
睡眠薬を飲みながら、家族に向けた筈の手紙を、
いつの間にか、日記として綴るようになっていく。
次第に睡眠薬さえ効かなくなっていく中で、
日記がある種の精神安定剤になっているのを感じた。
睡眠薬を飲む時、
このまま、一気に残りを飲み干せば、
効くのではないか。
眠れるのではないか。
楽に、なれるのではないか。
そんな衝動に襲われたのは、一度や二度じゃなかった。
それを実行に移しかけたことは、なかったけど。
家族に、友達に、大丈夫と言えなくなるからだ。
そんな状態で、頭をまともに動かないまま、
日記と化した手紙が溢れる中で、
数か月後、『僕』はホットミルクを温めた。
睡眠薬が効かないなら、
そう思って、身体を温めて、
眠ろうとした。
変な味がしたけど、
美味しかった。
そんな気がするのに、
ろくに覚えていない。
酷い睡魔に襲われて、
『僕』はそのまま、布団も敷かずに、
目を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます