第5話 見つけた『顔』は、

 『僕』は笑った。笑ってしまった。


 見上げた先には悪臭漂う首吊り死体。

 そんな死体を見る『僕』もまた、首を吊って『自殺』した。


 その筈が、何故かまだこの部屋の中にいる。

 生きて、首吊り死体の側にいる。

 ――滑稽だ。滑稽だった。

 こんな状況、笑わない方がどうかしている。


 だから、『僕』は笑ったのだ。


 笑う以外、何もなかった。

 何もできなかった。

 『僕』は完全に狂ってしまったのだ。


***


 笑い転げて、ふと思い立つ。

 そういえば、死体の顔を見ていなかった。


 こんなに部屋の中にいて、

 自分が殺したかもしれない相手の顔すら知らないなんて。


 それすらおかしくて、楽しくて。

 思わず吹き出した。


 だから、見たのだ。

 首吊り死体の顔を。


 ――確かにそう思った筈だ。

 

 ただ、思い返せば、違った。

 あれは『見たかった』わけじゃない。


 ――見ないといけない。

 そんな衝動に近かった。

 そうして覗き込んだ、その顔は――


「――え?」


 『僕』の顔をしていた。

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