第12話 『性格』は、

「で、だ」


 口火を切ったのは、『俺』だった。


「どうするんだよ、これから」

「え? だから、家探し――」

「家探しはいいし、分担するのもいい。問題はそこじゃない」

「じゃあ、どこよ?」

「家探しするにも、どうやって家探しするんだよ?」


 意味が分からない。

 そう言いたげに首を傾げる『僕』と『私』に、『俺』は言った。


「家中引っくり返して、『物』はどうするんだよ?」

「『物』?」

「ああ、『物』だ。家具はともかく、それ以外の『物』はどうする? ここに持ってくればいいのか? それとも、あった『物』だけ口頭で伝えればいいのか?」


 暇つぶしの一環であっても、目的があるのなら、行動も一貫していた方がいい。

 三人全員、バラバラな行動をしていたら、見落としがあったらいけないからだ。

 なのに、何故か『僕』にも『私』にもきょとんとされてしまった。




「……考えてなかった」

「意外に細かい性格ね……」

「意外ってなんだよ、意外って。普通のことだろ、これぐらい」

「この状況で、『普通』の基準なんて役に立たないと思うんだけどな」

「茶化すな」


 言いながら、内心首を傾げた。

 『僕』の言う通り、今の状況は決して『普通』じゃない。

 何せ、どう足掻いても出られない部屋の中にいる。

 その上、三人全員、自身の名前すら覚えていない状況下にある。

 

 そんな中、自分の性格の欠片が言動によって見え始めていた。

 いや、自分の性格が『細かい』内に入るかどうかは分からないが。


「どうしたの?」

「……いや、なんでもない」

「細かい上に、繊細なの?」

「俺が繊細なら、お前は気が強いよな」

「そう?」

「そうだろ」

「そう……」


 言いながら、『私』もまた首を傾げていた。


「気が強い……。そうか、私って気が強いんだ……」


 ――初めて『自分』を摑めた気がした。

 そのことを噛み締めていると、今度は『僕』が手を上げた。


「じゃあ、僕は?」

「……大雑把?」

「普通?」

「褒められてる気がしないんだけど……」


 がっくりと肩を落としながら、ちらりと二人を見た。


「ちなみにどんなところが大雑把で、普通なの?」

「……思い付きで行動できるのに、行き当たりばったりなところとか?」

「異常な状況なのに、『普通』に会話を楽しもうとするところとか?」

「やっぱり褒められてないよね、それ……」


 言いながら、『私』を見返した。


「しかも、そっちは暗に僕が異常だって言ってるのと変わらないんだけど……」

「別にいいじゃない。 異常でも何でも」

「そうかな?」

「そうだろ、実際」


 『俺』は肩をすくめた。


「じゃないと、こんな状況、長く持たないだろ」

「うん、そうかも……」

「それに私達、全員異常よ」


『私』は、はっきりと言い切った。


「こんな状況で、性格分かっただけで喜ぶなんて、普通ないでしょ」


 言われてみれば確かにその通りだった。


「……うん、分かった。とりあえず異常でよかったと思うことにする」


 納得いかない部分はあるものの、ひとまず置いておく。

 今は、家探しの件だ。


「それで家探しだけど、分担制でいい?」

「いいけど」

「問題ない」

「じゃあ、目的だけど……」


 頭を動かし、ふと思いつく。


「覚えがなくても、身に覚えがある物を重点的に探せばいいと思う」

「え?」

「どういう意味だよ、それ」

「僕らは家主がいる前提で行動する」


 仮に、家主と三人の間に接点があるなら、必ず何かしら手がかりらしき物がある筈だ。


「家中の物をここに持ってきても意味ないし、なら自分にとって『ピン』とくるものだけ集めればいい」

「ピンとって……」

「例えば、睡眠薬みたいな」

「ああ、あれか……」

「なかったら、なかったらで、家主ゆかりの物みたいなものを持ってくればいいと思う」

「それ、結局家中の物を持ってくることにならない?」

「それならそれで

「おい」

「まぁ、まずは行動。その後はその後で考えればいいし」


 言いながら、確かに自分は大雑把なのかもしれないと思った。


「それで、分担どうする? くじ引きで決める?」

「そこは普通に決めればいいだろ……」


 『俺』に、げんなりと言われ、分担は話し合いで決められた。

 そして、家探しが始まった。

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