第36話 今がいつかと考えた。
「五年後と二年後だろ」
「三年前と五年前だよ」
「三年後と二年前よ」
今が一体いつなのか。
三人は言い合いを続けていた。
三人が口にした西暦は、
他の二人からすれば未来だ過去だという話になってくる。
正確な日付が分からないから、
お互いの記憶だけが頼りだった。
結果、言い合いになったけど。
「…………飽きたな」
「確かに……」
「言い合いも飽きるものなんだね……」
疲れてしまって、すぐやめた。
「これ延々話してても始まらないだろ」
「確かに」
「何を軸に考える?」
言い合いをしても、答えが出ないなら、
答えが出る言い合いをしていたい。
「二人はここに住んでたんだよね」
「そうだけど」
「それがどうしたんだよ」
「…………」
前とは明確に違うのは、
三人共、ここに住んでいた。
家主だったという自覚があることだった。
「なら、覚えてる?」
「は?」
「何をだよ」
「殺人事件があったこと」
僕ははっきりと口にした。
その言葉に二人の反応は、
「殺人事件? なんだよそれ」
「殺人事件? 勿論覚えてるわ。一件でしょ」
完全に食い違うものだった。
しかもほぼ同時に言ったのだからたまらない。
「あったか? そんなの」
「あったでしょ。知らないの?」
怪訝な顔をする俺に、断言した私は僕に話を振ってきた。
「知ってるでしょ、殺人事件」
「知ってるよ、二件だけど」
「……二件?」
僕の答えに、今度は私が怪訝な顔をした。
「一件でしょ?」
「二件だよ」
「おい、俺を置いてくな」
また言い合いが始まる前に、俺が二人の間に入った。
「一件でも二件でもどっちでもいいだろ」
言い捨てて、俺は二人に聞いた。
「で、殺人事件って何の話だよ」
「数年前に起きた事件だよ」
「連続犯か?」
「多分だけど」
「多分ってなんだよ」
「仕方ないよ」
僕は肩をすくめて、
「だって未解決だし」
「…………未解決?」
「未解決」
頷きながら、二人に言った。
「せっかくだし、これについて話さない?」
「西暦は?」
「これを軸にして考えればいいよ」
「なら、話をまとめるのは、俺がする」
「ややこしそうだしな」とぼやく俺に、僕は笑いながら考えた。
未解決殺人事件。
中には連続犯だと煽る記事まであったほどの事件だけど、
何故か僕はその事件に、
身に覚えがあった気がした。
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