第32話 覚えていても、分からない。

 何が起きたのか分からなかった。

 気付いたら、『俺』は死んでいた。


 自分の死体を目の前にして、≪俺≫は呆然と立ち尽くしていた。


「……は?」


 「なんで」よりも、まず「は?」が先に出た。

 真っ先に自分の死体を見せつけられて、「なんで」と思えるほど、

 ≪俺≫には余裕がなかった。


 カチッ。


 そんな音が耳に届いて、

 何回自分の死に様を見届けたのだろう。


 ただ、『俺』の死に様も、床に広がる赤色も、

 無数に刺された傷跡も、

 嫌でも覚えてしまう程見ているのに、


 何故か犯人の顔だけは分からない。


 コーヒーに砂糖を入れて飲んだのは、覚えている。


 飲んだ直後、急激な眠気に襲われて、

 そこからぽっかり記憶がない。


 次に目を開ければ、

 『俺』の死体が転がっている。


 死体を見たら、また同じように、二週間前に逆戻りして

 同じように、『俺』が死ぬまでの生活を見せられる。


 それを何度も何度も繰り返し、繰り返し、

 見た結果、


 ≪俺≫は唐突に思った。


「……飽きたな」


 だから、≪俺≫は『俺』を殺すことにした。

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