第48話 並べてみても、分からない。

「『ほら』じゃないでしょ」


 私は僕に文句を言った。


「溺れる身にもなってよ。結構苦しいんだから」

「それはごめん」

「大体なんで溺死なのよ」


 見終わった後、浮かんだ疑問を僕にぶつけた。


「もっと楽に殺せる方法あったでしょ」


 確かにそうだ。

 あんな、手間のかかる方法よりも、より安全により確実に、

 殺せる方法なんかいくらでも思いつく。


 だけど、それは、


「なんとなく」


 今だから思いつくのだ。


「なんとなくあの方法がよかったんだ」

「よかったって」

「あれ以外思いつかなかったんだ」


 あれ以外一番私を方法が思いつかなかった。

 それだけだ。


「じゃあ、ふたりは? 殺し方、他に思い付いた?」

「いや」

「まったく」


 即答した二人に、僕は呆れて言った。


「人のこと言えないと思うんだけど」

「まぁ……」

「言われてみれば確かにそうね」

「反論してもいいと思うけど」


「どっちなのよ」


 言い返した私に対して、僕は首を傾げた。


「僕もよく分からない」


 鑑賞を終えた部屋を見れば、

 首吊り死体と刺殺された死体が目に入る。


 多分、風呂場には溺死死体が浮かんでいる筈だ。


 見なくともなんとなく分かった。


「とりあえず」


 悪臭に鼻が曲がりそうになったが、

 いつものことなので放っておく。


「時系列順に並べてみる?」

「時系列順?」

「死んだ順番に?」

「死んだ古い順番に」


 といえ、並べるなんて簡単だ。


 時系列順に殺された順番に僕らの死を並び替える。


「まずは俺だな」

 

 一番最初の住民である俺は、二年後の私によって殺された。


「次は私ね」


 二番目に殺された私は、三年後に入居予定の僕によって殺された。


「最後は、僕だ」


 三番目に殺された僕は、筈の俺によって殺された。


 殺人現場は全てこの部屋で行われ、

 犯人は全員三人のうちの誰かだった。


 しかも殺したのはたいていつまらない理由で、

 殺したとされる時期は、犯人である僕らに接点はなく、

 それどころか全員もれなく死んでいる。


「……」

「……」

「……」


 並び替えてみてみると、びっくりするほど、


「何のあてにもならない」


 それがすべてだった。


「そもそも私達って、殺されたのよね?」

「そうだけど」

「そうだろ」


「なら、思うんだけど」


「ああ」

「うん」


 言われなくとも、私が言わんとすることは、

 三人全員思うことだった。


「一番最初に殺されたのって、」


 誰なのか?


 それ以前に、


「一番最初の殺人って、」


 一体誰だったのか?


 たとえば、年号順に並び替えれば、最初に殺されたのは俺になる。

 だが、殺したのはだった。


 その時、まだ私は生きている。


 他の殺人だって似たようなものだ。


 生きているのに、死んでいる自分がこの部屋にいる。


 不可解で、奇天烈な部屋だった。

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