第49話 指を差したら、あっさりと、

「そういえば、気付いたんだけどさ」


 僕はポツリと呟いた。


「あれ」


 指を差した先に、視線を向けて見てみれば、

 ひび割れた時計があった。


「あれがどうしたのよ?」

「は?」


 誰かがぽかんと、間抜けな声を発した。


「だから、時計が動いてた」

「いつ?」

「僕らが僕らに殺された時」


 映画鑑賞の気分で見ていたら、ふと気が付いた。

 

 音が鳴っていないけど、

 じっと見ていたから間違いない。


 あのひび割れた時計は動いている。


「あとさ、」

「ちょっと待ちなさいよ」


 続けて言おうとしたら遮られた。

 遮ったのは、私だった。


「これ」


 私は無造作に置かれた時計を手に取った。


「電池がないじゃない」


 ひび割れた時計は先程同様、

 電池がないから動いてない。


「そっちが言ったんじゃない。電池がないからって」


 電池がなく、床にあった時計は無関係だと。

 確かに僕が言ったのだ。


「確かに言ったけどさ、」


 僕は肩をすくめた。


「時計が床に落ちたなら、電池もそこにあるんじゃない?」

「どこに?」

「どこかに」

「だから、どこに、」


「あった」


 俺だった。見れば、床に這いつくばって、棚の下を覗き込んでいる。


 大間抜けな格好だった。


?」


 だが、そんな格好よりも、俺の言葉が気になった。


「電池があった」


 俺は立ち上がり、それを見せてきた。

 若干埃を被った、二本の単三電池だった。


「これじゃないか?」


 私が怪訝な顔をした。


「都合が良すぎない?」


 先程の『娯楽』は楽しめたが、ここまでご都合主義続くと薄気味悪く思って当然だ。


「まぁ、時計に差し込めば分かるだろ?」


 俺は僕から時計を取ると、

 埃を払った電池を入れ込んだ。


 カチッ


 あの不愉快な音に近いけど、そうじゃない。

 振り返ると、


「え?」


 そんな声しか出なかった。


「嘘」


 誰かがそんな言葉を口にした。

 恐る恐る誰かが窓に手に掛けた。


 その誰かの後ろに他の二人が続いて近寄った。


 カラカラと聞き慣れた音が、

 やけに現実味のない音だった。


「開いた……」


 窓が開いた。

 そんな当たり前を、誰かが呆然と呟いた。

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身に覚えのない殺人。それは『僕』がやりました。 ぺんぎん @penguins_going_home

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