主人公は明智湖太郎は皇国共済組合基金に勤務する青年。
しかしそこは表向きは陸軍の福利厚生を業務としているが実はその実体は「無番地」と呼ばれる陸軍中野学校傘下の諜報機関であり、彼もそこに所属するスパイの一人です。
物語は憲兵隊の大佐の娘に脅迫状が届き、明智が護衛を命じられるところから始まります。
冷徹で隙のないハードボイルドな男たちの血を血で洗う暗闘が描かれることになる……のかとおもいきや、主人公はスパイでありながら女性が苦手で真面目気質で自分より有能な同僚にコンプレックスも抱いている、人間味あふれる人物です。
展開も「犯人当て」や「暗号解読」などミステリ要素を交えつつ、個性あふれる仲間たちと事件を解決していく、良い意味で重い展開にならない読みやすさがあります。
ストーリーとしては五つの中編となっていて、アクションもあればコメディもありロマンスも絡めている飽きの来ない構成です。
文章も昭和中期のどこか危うい時代の雰囲気を醸し出しながらも、丁寧に人間描写がされているため、とても入りやすく楽しめる物語となっております。
最後までスムーズに楽しむことができました。
随分と前に放送された深夜アニメ「ジョーカーゲーム」に表面上は似ています。戦前戦中に暗躍した日本の諜報機関が本作品の舞台です。
江戸川乱歩の明智小五郎をイメージした方は最初に肩透かしを食うかも知れませんが、読み始めれば直ぐに嵌ると思います。寄って来た探偵小説ファンを裏切る事は無いでしょう。
諜報事件を題材にしているものの、最大の魅力は機関所属員たちのキャラです。思わず声援を送らずには居られません。
本作品はオムニバス形式なんですが、飛ばし読みは勧めません。エピソード毎の緩急が心地良い。作者の計算したレールに身を任せるのが妥当です。
最後のエピソードは胸を熱くしますよ。そんな心意気の諜報機関が存在していたなら…。後の歴史を知る我々は、だからこそ、登場人物たちを応援してしまうのかも知れません。
戦前の空気といえば軍靴の音などに代表される不穏さがまず出てきますが、ここに描かれている世界はその基本を抑えつつも、筆者の遊び心がふんだんに込められているなと思いました。
ちょっとタイトルからはギャップのある作風なんですけど、しかしそこがいいです。なんというか軽さがあるんですよね。その空気がステレオタイプな既存作品の上に積み上げられている感じです。とはいえシミーズや省線、無線機なんて単語を積極的に使ってるあたり、ああ凝ってるなあ、好きなんだろうなあ、と思ってしまいました。私もこの時代好きなんで楽しかったですね。
で、そのベースになってるのはやはりキャラクターですね。ミステリでもあるのですが、これはキャラクターです。キャラクターがいい。現代風で女性受けしそうな容姿、抜けた性格。周囲もそれにフィットした感じでドラマを盛り上げてくれるのがいい。食べたいものを食べてなにが悪い(笑
大きく動いている時代を軽やかに飛び交う登場人物たちは、時に人情ものを演じたりブロマンス的な雰囲気を出してきたり。硬派でお茶目で楽しい作品です。ぜひ読みましょう。昭和15年を好きな人も、そうでない人も。
第二次世界大戦の影響、それは何も戦地や人に及ぶだけのものではない。日本中、いや世界中を動かしうるその最先端に、「彼ら」はいる。
陸軍が生んだ幻のスパイ組織「無番地」の青年たちは、誰もが羨む能力を全て備えた精鋭たち。高級官僚への切符をいとも簡単に捨てた明智は、「日本を陰から直接動かす」諜報員として暗躍し始める。
そんな明智には、ある欠点があったーー。
スパイという生き物は、信念のためならどんなことだってする。人間として失格であっても、スパイとして合格であればその道を選ぶ。
それが定説といっても過言ではない。が、この物語は違う。
スパイである前に人であれ。
人間離れした能力を持っていても、その裏に必要なのは人間の心。
スパイにとって非常に難しい理念を持ちながら、「人間として生活しながらのスパイ活動」に励む面々たち。そして、人間離れした活躍。
濃い、濃い、とにかく内容が濃い。
カクヨムの中でも珍しいミステリの中でも、ひときわ際だつ作品です。
カクヨム史上最高のスパイ小説であると、断言しても良いでしょう。
とにかく最高でしたので、続きを待っております。
いや、続きがないとか関係なく待っております。
ようやく読了いたしました。
スパイ、と言えばどこかお堅いイメージを持っていたのですが、そんなことはありませんでした。いえ、確かに文体も舞台背景も戦前ということで硬派ではあったのですが。
戦前の昭和の風景なんて、映画やアニメーションなど画面の中でしか見たことがないですが私の中にある昭和風景を脳内に浮かべ、キャラクターの動きを追いかけていました。
読み進めていけばいくほど、世界に引き込まれてしまう。
特に、主人公の明智には毎話毎話「頑張れ!」と応援していました。
硬派でやや神経質な彼は、俗に言うイケメンであるのにどこか残念……各話で女性に振り回される様子がなんともコメディですね。面白いです。
また、同期のスパイたちにもいじられからかわれ……本人はいたって真面目なのに、それがかえって残念というかなんというか。本当に、頑張れ!と応援したくなります。かっこいいシーンも勿論あるのですが、翻弄されている彼の方が私は好きです。
明智のみならず、登場人物たちは個性的で一癖も二癖もありますね。
第二話なんかは、ほぼ全員集合なので彼らの生き生きとした表情に悪巧み(?)にもまた笑わせてもらいました。
そして、キャラクターだけでなく物語もしっかりとミステリーを完成させているので読み応え満点です。
スパイと言えば、どことなく冷たい機械的なイメージで……しかし、彼らに出会ってその考えはなくなりました。明智をはじめ、各々持つ過去もチラリと垣間見え、そこにはしっかりとドラマがあります。
人情味溢れるスパイミステリー、読んで損はありません。
ラスト、私は「ここで終わり!?」と残念に思ってしまいました。続きを待っていたために。
短編行ってきますね。
冒頭で語られる諜報員誕生のくだりは、どこかで聞き覚えのある設定でしたので、
007やカクヨムを運営している所から出版されているジョーカーゲームのような物語かなと思いながら読んでいました。
期待が良い意味で裏切られだしたのは、主人公である明智氏の
人間性や考えに筆を踏み込んでこられた辺りからでしょうか。
カッコいいだけでは無く、温かみやコミカルな面も持ち合わせている
彼の人間像がゆっくりと見えて行きクラスタの一人になってしまいます。
物語を盛り上げるミステリーや仲間の存在も丁寧に書かれていますが
やはり主人公の主人公たる存在感が秀逸でリアリズムに溢れています。
評価200越えは伊達じゃない。そんな読後感です。
このような作品を投稿してくださった作者様に感謝のエールを贈ると共に、
この作品に出合わせてくれたカクヨムにも感謝します。
私の好きなミステリーにて、第2回カクヨムWeb小説コンテストで読者選考を通過した人気作品ということで気になっておりました。
ただ昭和、しかも戦前のスパイ小説ということで、硬派な物語を予想しており、歴史的な造詣の深くない私にはハードルが高いのかなと思っておりましたが、良い意味で裏切られました。
確かに、主人公の明智湖太郎は女性嫌いで女学生にすら翻弄されてしまう硬派(?)で一般からすると異端な人物ですが、作者さまの精巧な筆致により、非常に温もりのあるキャラに書き上げられております。
そんな明智も呆れてしまうような、個性豊かな同じ部署のスパイ仲間たち、任務を遂行する上で関わってきた人物とのやり取りは、いささかシュールに表現されており、公衆の面前でも思わず噴き出してしまうような笑いも織り交ぜられております。
そして最大の魅力は、後半で際立ってきますが、明智や同胞しかりスパイである前に一人の人間であることです。
冷徹で冷酷なイメージのある職種ですが、彼らはそのイメージとは一線を画すような信念の持ち主であり、さまざまな任務をこなす上で彼らのポリシーが美しく光ってきます。
ミステリーでありながら人間ドラマとしても非常に魅力的な作品で、既に多くの方に読まれている良作ですが、もっと多くの方に読まれて評価されるべき作品だと思いました。
素晴らしい作品をありがとうございます。
第2回コンテストに応募中のようでしたので、読み途中にはなりますがせっかくなので一旦レビューさせていただきますね。(半分弱まで読了)
作り込まれ魂を吹き込まれたキャラクター達に惹かれます! 特に主人公の明智は独特のダンディズムがあって、魅力的でした。
諜報員という一風変わった職業も、しっかりと描き込まれていてリアリティがあり、
厨二病心をくすぐられて読み始めたものの、読んでみたら本格的にカッコ良かったです。
ダンディズムに諜報員のこの組み合わせは最強ですねー!
また、ツンデレ女子小学生もめちゃんこ可愛かったです。
緊張もあれば息抜きもあり、緩急のつけ方の勉強になりました。(饅頭事件はケラケラ笑いましたw)
続きも楽しもうと思います。
昭和初期を舞台にしたスパイ小説、というわけでもない。主人公の仕事がスパイなだけ、かな?
本来陰湿な裏切りものであるスパイのイメージを一新したのは、ジェームス・ボンドのシリーズだが、本作の主人公はジェームス・ボンドのように魅力的だが、女が苦手というスパイ小説ではあり得ない設定。
ここですでに破綻している。
そこへもってきて、同じ職場の同僚たちの個性的なこと。おまえら、スパイの意味理解しているのか!と、腹を抱えて笑ってしまう。
出てくる事件も、のっけからお嬢様の運転手けん執事。「お帰りなさい、お嬢様」的な。
次の話は推理物なのだが……。
時代考証がしっかりしていて(いやしっかりしているかどうかは検証してないのだが、しっかりしている感じがする)、随所にそれらしい言い回しや単語が散りばめられ、昭和感を醸し出している。
文章は異様に読みやすく、誤字脱字の類が皆無にちかい(あるかもしれないけど)。
さらに、あちこちに作者が答えをあたえずに仕込んだ細かい謎や遊びが満載。
1話だけ読むつもりが、一気に4話までいってしまった。
キャラクターも世界観も良いです。
ミステリーというよりも、昭和のレトロが香るハートフル・ライト諜報機関物、という印象を私は受けました。大好物です。
お兄さんとおっさん方が良い味を出しているのも、この物語の雰囲気を実によく高めています。文体も、必要以上に堅苦しくならないよう、良い塩梅になっています。
優秀なのにいじらしい明智も、頼りないけど意志堅い旭も、個性豊かな同僚の面々の言動も、とても面白いです。
しかし、四話と五話の間の話を省略したのが、個人的にはとても不満です。四話と五話の間にあったであろう話は、とても重大で、それこそ一番魅力的に光る話です。ストーリーの流れ的にも、この短編集の山場となったはずです。様々なキャラクターの想いや意思がぶつかり合い、読者の心を鷲掴みにし、虜にし、五話の決断をより一層魅力的に描くための布石ともなったはずです。一番の山場を削るとかありえません。今すぐにでも、『話』としてしっかり独立させ、絶対に書くべきです。