スパイである前に一人の人間として血の通った名作

私の好きなミステリーにて、第2回カクヨムWeb小説コンテストで読者選考を通過した人気作品ということで気になっておりました。
ただ昭和、しかも戦前のスパイ小説ということで、硬派な物語を予想しており、歴史的な造詣の深くない私にはハードルが高いのかなと思っておりましたが、良い意味で裏切られました。

確かに、主人公の明智湖太郎は女性嫌いで女学生にすら翻弄されてしまう硬派(?)で一般からすると異端な人物ですが、作者さまの精巧な筆致により、非常に温もりのあるキャラに書き上げられております。

そんな明智も呆れてしまうような、個性豊かな同じ部署のスパイ仲間たち、任務を遂行する上で関わってきた人物とのやり取りは、いささかシュールに表現されており、公衆の面前でも思わず噴き出してしまうような笑いも織り交ぜられております。

そして最大の魅力は、後半で際立ってきますが、明智や同胞しかりスパイである前に一人の人間であることです。
冷徹で冷酷なイメージのある職種ですが、彼らはそのイメージとは一線を画すような信念の持ち主であり、さまざまな任務をこなす上で彼らのポリシーが美しく光ってきます。

ミステリーでありながら人間ドラマとしても非常に魅力的な作品で、既に多くの方に読まれている良作ですが、もっと多くの方に読まれて評価されるべき作品だと思いました。

素晴らしい作品をありがとうございます。

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