第28話

 ――母がしたことがどこまでもついてまわる。

 たとえ自分じゃなくても。

 

 最終的には自分が不倫したことになっているのだから。

 

 光咲は自分に関する内容を時々エゴサーチしていたが、最近は悪口か事実無根の内容が載っているまとめサイトが上位に出てくるので見ていない。

 

 ネットでマイナスイメージがついてしまうと、みんなが敵に見えてくる。

 

 ファンと名乗る女性が家に突撃した時には背筋が凍った。

 光咲はブログに個人につながるようなことを一切載せていない。

 しかし世の中には、ネット掲示板に光咲が投稿したブログや他のSNSの投稿をベースにして載せて、そこから個人情報を特定するのを趣味にしている人がいる。そこから拡散されていく。

 光咲の不倫していた記事が乗ってからさらに拍車が掛かっている。

 拡散されたSNSのコメントは「親の因果は子に報いるのは残当ざんとう残念ざんねんながら当然とうぜん)」「かえるの子は蛙。親が不倫すればあいつもしてもおかしくない」「インテリアコーディネーターの癖に調子乗ってる」「メシウマざまぁ」だ見るに耐えない内容が散見された。




 ――それがたとえ事実無根だろうが責任を取らない。話題になればいいのだから。

 

 光咲への誹謗中傷を理由に明珠香のことを特定されたり、学校でいじめられたりするのではのではないか心配でいる。

『親の因果は子に報いるのだから仕方ない』と正当化して。

 今なくても、いつどこでそのようになるかわからない。


 母がやったことは光咲の生活や人生に大きく影響しているのだ。

 

 そしてやった本人が因果応報を受けているかどうか分からない。


「高校時代の時に、朝子さんは日頃の行いが良かったし、先生からも評判よかったからね。そりゃみんな朝子さんの方へ行くよ。私は日頃から母の過去のことで評判よくなかったから、いじめられて当然だと思われてたのかもね……世の中って理不尽だけど。それでも私には幸せに生きる権利がある。母のこと関係なく見てくれるのはしゅうちゃんぐらいよ」

「光咲も井上さんもいんがおーほー、いんがおーほーって言うけどさ、なんか違うと思うんだ。あの言葉は確かにマイナスなイメージで使われることが多い。でもね、いいことやったらそれも返ってくる。光咲が努力家で優しいのは夫である俺が一番わかっている。因果応報の呪縛から離れていいんだよ。光咲は光咲なんだから」

 秀清の言い方は子どもに諭すようだった。


 光咲は光咲――私は幸せに生きていい権利を持っている。周りがとやかく言おうとも。

 

 母がやったことは私や娘や夫には関係ない。

 子どもたちを巻き込んでまで、朝子の復讐に巻き込まれる筋合いなんてない。

 むしろ卑怯なやり方だと思う。

 私が娘を大切にしていることを分かっているのだから。その上でだ。

 それどころか、香子と喜久そしてお見合い相手である志津子たちも巻き込んでまで自己満足をしようとしているのだから。

 麻子の嫌がらせは相変わらずだった。


 高校時代に光咲は朝子から盗難の犯人に仕立て上げられた。

 朝子のハンカチがなくなったで騒ぎになった。

 みんなが探している中、朝子のハンカチが光咲の机の中に入っていた。

 しかしこれは朝子の自作自演によるものだった。しかも親友の馨子と結託してだった。

 親友は「朝子さんには逆らえないから」という理由で光咲を犯人に仕立て上げた。

 担任から「やっぱりお母さんに似てるのね」という嫌味をありがたく頂いた。

 結局学校側の謝罪で終了したが、何か納得いかないものだった。

 

 朝子は「光咲が馨子と一緒にいるのが気に入らない、盗られた。馨子のことをずっと好きでいたのに」と思ってこのようにしたのである。

 

 朝子の理不尽な理由で陰険なやり口は高校時代から変わっていない。復讐として正当化しているのだから。


「あー、思い出すだけで腹立つ! 井上夫妻の言い方! あいつ市議会議員しぎかいぎいんだなんかでるって言ってたけど、なってもすぐ炎上しそう。なーにが下々の人だよ! 奥さんのやり方に同調してるし! 調子にのってるから誹謗中傷されても仕方ないも全然理由になってないし!」

「奥さんも光咲に対してお墓やお葬式の準備だ、浄土じょうどの世界へいってくれってさ……上品な言い方して、死んでくれって言ってるだけじゃん! どんだけ光咲のこと嫌いなんだよ、あの夫婦……!」

「どこまで馬鹿にすればいいんだか! 結局は光咲が下にいてくれた方が向こうとしては都合がいいんだろうな。光咲を見下せるから」

 いつも穏やかな秀清がこんなに怒るのは珍しい。

 私の代わりに怒ってくれているんだ。なにも言えない私に。

「しゅうちゃん、私の代わりに怒ってくれてありがとう。もういいよ」

「いいんだよ。光咲があんなに言われるの俺としては許せない。――井上朝子の件と誹謗中傷の件について、弁護士に相談しよう。光咲が泣き寝入りする必要ない。義母のことは光咲、俺や明珠香が因果応報うける必要ない。平穏に生きる権利があるんんだから」

 光咲は静かにうなずいた。

「さて、明珠香ももうすぐ塾から帰ってくることだし、今日はみんなで出前にしよう」

 飯塚家の時計は夜九時前を指していた。

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