第25話

「そうでしょうかねぇ。とんびたかを生むっていいますからね。私の妻はそのようなことをされる方ではありません。私にとって誇りであり生涯大切にすると誓った相手です。それは妻の家庭環境込みでの話です」

 秀清は井上夫妻の嫌味にすぐに対抗した。

 小学校時代の初恋の相手であり、中学受験専門の塾で頑張っている姿を見て好きになった。

 いつか連絡先を教えてもらおうとやきもきしていたのに、中学受験終わる前に光咲は塾をやめてしまった。

 それ以来受験がどうなったかどうかわからなかったが、高校時代に光咲の定期券を拾った際に、再開できたときは本当に心踊った。

 光咲の母が厄介だった。

 とにかく光咲と連絡させないように電話口で言われた。


 光咲は紫桜学院に通っていて、そこは男女交際禁止で誤解される。ただでさえ光咲は先生方から目を付けられて評判悪い。

 


 だいぶ後に光咲は「うちの母は兄弟で通えば安くなる峰沢みねざわじゃなく、紫桜学院にしたのは、私を恋愛から遠ざけるためと『お嬢様学校に通わせている親』という泊をつけるためによ。結局は周りにマウンティングするためね。本当は私の意思ではない」

「本当は兄が通った峰沢に行きたかった。兄弟だと学費が安くなるでしょ。でもお母さんは反対した。娘を恋愛禁止の学校にいれておきながら、私の兄の同級生にちょっかいかけてたわ。挙句の果てには私の同級生の保護者と不倫よ。おかげで私その子から嫌がらせ受けたわ。あの人はね基本、自分以外のひとがちやほやされるのが嫌いなの。自分が世界で一番可愛いって本気で思っているの。本当に神経図太い。異性が好きなのよ、あの人。だから息子である兄にめちゃくちゃ甘いの。でも兄は嫌がってるの。こんな状況だと私はグレてもおかしくないけど、私は兄と父のおかげで生きられたわ」と言っていた。

 光咲の兄は実母をかなり軽蔑けいべつしている。

 どこからか手に入れたか分からないが、悠一の同級生に光咲の母が「会いたい」だ「デートしたい」だ送りつけて、同級生から悠一に相談が来たことにより揉めた。

 ――あのアマ、俺の友人に連絡先聞いてデートしようと目論もくろんでた。ママかつでもやりたいんか、あれは……! ほんと息子の同級生にかけるなんか気持ち悪いわ。

 いつぞや光咲の兄から聞いたとき言葉がでなかった。

 かなりカンカンに怒りながらと呆れが入り混じった言い方をしていたのを覚えている。


 光咲の両親が離婚してから、連絡を取り合うことが出来た時は「もうあの親からとやかくいわれなくて済むんだ」と胸をなでおろした。

 光咲の父も婿養子であることを理由に馬鹿にされていた。

 離婚の話の際に売られた癖や婿養子むこようしの癖になど散々な言われようだった。

 光咲の父が婿養子であることは事実であるが、会社の代表として貢献してきた。

 しかし光咲の母が不倫した挙句に光咲の父に、ゲテモノ料理や異物を平気で入れていた。実際体調をそれで崩したことがある。

 

――光咲の父には多額の保険金をかけられていた。もっというと光咲にもかけられてた。


 光咲の母としては「なにもせずに邪魔者が死んで、息子と不倫相手と暮らして安泰」という人生にしたかったのである。


 離婚の経緯を聞いた時は正直引いた。

 光咲の母の自分勝手さに。横暴さに。

 メンタルの強さに感心した。

 光咲の父や兄はそれで随分悩まされていた。

 

 ちなみに光咲は自分の母が今どうしているか分からない。光咲がインテリアコーディネーターとして表舞台おもてぶたいにでる際にはプライベートは極力話さない、本名も公表しない、紫桜学院の卒業生でいることを明かさないでいた。光咲の母がたかりにくる可能性があるからだった。これは光咲の兄のアドバイスの案であった。


 ――生涯光咲をあの母親から遠ざけたい。彼女を幸せにしたい。

 そう思うのは傲慢ごうまんなんだろうか。

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