第42話


「つゆ子から話聞いたけど、邦広と朝子さんは人を見下しすぎだ。まして孫のクラスメイトとその親に対して失礼すぎる。選民思想せんみんしそうの塊だ。香子ちゃんの許嫁の件は正直本気だと思ってなかったよ……高校生で花嫁修業って何考えてるんだ。一体いつの時代の話だ。明治時代か? もう年号変わってるというのに……!」

 源三げんぞうの唇が怒りで震えている。

 朝子の親と飯塚光咲の親が不倫した挙句再婚しているのは知っている。

 喜久が好きになった子がたまたま光咲の娘である明珠香であった。

 朝子としては自分の親と不倫関係になった光咲の娘が、喜久と仲良くされるのは腹が立つ。しかも光咲はインテリアコーディネーターとして活躍している。

 源三は飯塚光咲のことはテレビで何度か見ていたので名前は知っていた。

 不倫した親の娘の癖にのうのうと生きるのが気に入らない。

『親の因果が子に報いる』を正当化し、朝子は香子を使って明珠香に嫌がらせ、光咲のブログに誹謗中傷コメントをした。

 それに対して邦広はたしなめるどころか同調している。

 邦広も飯塚光咲のことが嫌いだったのだろう。

 嫌いな人間が不幸になるのは嬉しい、飯がうまいだなんて言っている。

 自分の選挙が近いから朝子の嫌がらせはなかったことにして欲しいと飯塚夫妻に言った。

 香子の許嫁は本気だと思っていなかったし、喜久の許嫁の件は初めて知った。

 しかも喜久は当日無理やり連れて行かれた形である。

 相手は香子のクラスメイト。

 香子の親は朝子と小学校からの同級生で、朝子が密かに想い慕ってたという。

 同級生同士が親族になるし、香子もクラスメイトと親族になる。

 香子の親は医療器具メーカーを経営しているので、邦広的にも都合が良かったのだろう。医療関係者と親族になれるということで。

 得するのは朝子と邦広である。

 勝手に決められて喜久は心細かっただろう。反発したくなるだろう。

 せっかく気になる女の子とふたりっきりになれたと思ったら強引にお見合いだと連れて行かれて。

 

 喜久と香子は親のつながりや利益のために結婚させられる。

 当人たちの意思はどこへ言ったのだろうか。

 その前に意思確認したのだろうか。

 朝子と邦広のことなので強引に推し進めていただろう。

 女の子と別れるように圧力をかけるだろう。

 自分たちが決めた相手以外は気に入らないのだろう。なにかと理由をつけて。

 やれ下々の人間だとか親の職業が卑しいとか。


 ――あの二人は子どものことを考えているふりをしているだけであって、本心は自分たちの地位や名誉や風聞。

――結局自分たちのことしか考えていない。


 悔しい。何もできなかった自分を。

 代替わりしてから朝子と邦広の暴走を止められなかった自分を。

 今まで家庭や仕事での古いやりかたや考え方を時代にあわせていこうとやってきたが、邦広はまるで時代が逆行していくような形でやってきている。

 とにかく女性は三歩後ろで、夫を迎えるときは三つ指ついてのような女性を香子に押し付けている。一部の人には喜ばれるだろうが、今時の若い人がそのようなことをされてもリアクションに困るだけだ。

 喜久は家の存続のための存在だがそもそもこの家どころか、歯医者になりたいかどうか甚だ疑問である。

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