第8話
朝子の父が他の女性と大人の関係になったのである。
しかも朝子がその現場を見てしまった。自宅の門の前で。
恥ずかしながら電柱の影から覗いてしまった。
女性が着ていたのは赤のオープンウェストのミニワンピース。胸元の自己主張が激しい。
「ねぇ、今度はいつ会えるの?」
甘えた声が高級住宅街に響く。
「月曜日かな。家族には出張っていうことにして」
「今度はあそこのホテルに連れてって。この間私が教えたとこ。卓さんとならきっと楽しいわ」
えっ、いま「まさる」って聞こえた。
父の名前だ。
あの人一体どういうご関係?
父が母以外の女性とホテルに行こうとしている。
会社関係の方?
「えーっ、明日にしてよーっ。そうじゃないと夜はおあずけね。あー、残念だったな。卓さんだと…ね?」
女性は父の腕をからませ胸を押し付けた。
上目遣いでぶりっ子口調でおねだりする姿を見て朝子は言葉が出なかった。
嫌悪感しかない。
胃が逆流しそうだ。
女性の一言一言が朝子の神経を逆なでさせる。
お父様! こんなことしないで! お母様が悲しむわ!
一体どこのどなたか存じ上げませんが、父とはどういうご関係で?
朝子が見たのはこれだけではなかった。
学校が早く終わったので家に帰ると見慣れない靴があった。
白のヒールが高いパンプス。
リビングから声がする。女性の艶かしい声。
――この声、私が先日聞いたのと似ている。
そっと気づかれないように音ださないようにと朝子はリビングのドアを開けた。もう覗いているような感じだ。
ソファに父と女性がいた。
女性は白のタイトブラウスに黒のタイトスカートとパンストを着て仰向けになっている。そしてガードするように足元をきっちり閉じている。
ブラウスの豊満な胸がはち切れんばかりに強調されている。ボタンが取れそうな勢いだ。
父が馬乗りになって女性のブラウスのボタンに触っていた。
多分これからいたすだろうなという雰囲気だった。
朝子はそそくさと自分の部屋に逃げた。
朝子はこの一件を母に伝えると「わかりましたわ。あとは任せて」と言われた。
「あの人が他の女性と関係を持つのは仕方ないですわ。男の甲斐性だから。今に始まったことじゃないわ」
母は朗らかに返した。。
今まで母は自分の感情を押し殺してでも父のことを見逃してきたんだと思う。
人脈を広げるために接待だ、付き合いだと父は不在がちだった。その相手の中には女性がいてもおかしくない。でも、今日私がみたのは完全に「男女の仲」の雰囲気だった。
父と一緒にいた女性が小野寺光咲の母
朝子はこれ幸いと言わんばかりに、光咲に対して嫌がらせを行うことにした。
――あの人は馨子さんを奪った。そしてあの人の母は私の父を奪った。
これ以上私のもとから大切な人を奪わないで!
――絶対にあの人にバチが当たるようにしなければ。
――馨子さんと私の父を奪った罰。
もうその感情しかなかった。
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