第10話

 今、近くに小野寺光咲が母親になり、その娘が峰沢学園に通い、私の息子と仲良くしている。

 こんな親子と息子が仲良くされては朝子としてとにかく気に入らなかった。

 復讐してやろうと思った。

 

――親の因果は子に報いる。

 小野寺八重子がしたことを責任もって償ってもらう。

 幸せでいられたら嫌だった。

 なのに、彼女はインテリアコーディネーターとしてメディアに出て、その関係の本やブログが繁盛している。しかも好きな人と結婚されているなんて。

 

――なんでいつも私の思い通りにならないの!

 悔しい。悔しい。憎い。憎い。

 今まで私は苦しんできたのに!


 片や私は、親が決めた結婚相手と一緒にいて、跡継ぎのために子どもを産んだが女の子だった。親戚筋から「なぜ女の子なのか」「井上家の跡取りは男に決まっている」と。

 性的なことは高校時代のことがありどうしても乗り気になれなかった。

 姑は「焦らなくてもいいですよ」と言っているが。私は正直言って「庶民の成り上がり」の姑に庇われても全く嬉しくなかった。むしろ内心見下していた。

 義理の弟夫妻のことも内心見下していた。

 比較的庶民的に育った義理の妹と話が合わない。

 向こうは芸能人の話や身近にあった面白い話をしているが、こっちは絵画やフランス映画について語りたいと思っている。そもそも生きている世界が違う。私とは。

 でも姑と仲良くしていて幸せそうに見えた。何か置いてきぼりにされているような感じがした。

  

 朝子は「専業主婦」として家のことを完璧に切り盛りするようにした。

 一人娘である香子に紫桜学院に小学校から通わせて「上流社会」に出ても恥ずかしくないように育てることを徹底させた。

 そんな中、甥である喜久の両親が中学受験合格してすぐに亡くなった。

 両親がいない喜久を引き取ろうと朝子は決心した。

 夫はすぐに了承してくれた「これで口うるさい親戚を黙らせることができるな」と。

 峰沢学園に喜久が入ったのはいいが、よりによって仲良くしている女の子が、かつて嫌がらせをした同級生の娘であった。


――復讐するためにはその人の大切にしているものを傷つけるのが一番ダメージ大きい。

 

 彼女が大切にしている娘を傷つけようと考えた。

 飯塚明珠香を井上家に呼び出し、睡眠導入剤が入ったお茶を飲ませ、地下室に閉じ込める。その間に喜久を志津子とお見合いをさせて将来的には本当に結婚させるつもりでいた。余計なことをいわせないために香子にも明珠香と同じお茶を飲ませた。

 喜久を車に乗せるために、午前中にお暇させたお手伝いの橋本と川井を呼んだ。二人共すぐ井上家に駆けつけられるように近隣に住んでいる。ちなみにこれは朝子の要望によるものであった。

「奥様どうされましたか!?」

 血相を変えて二人は割烹着姿でやってきた。

「喜久が体調崩したので、お車に乗せることできるかしら? 病院に連れて行くから」

 二人は疑うことなく喜久を車に載せた。

 喜久の制服は助手席にあらかじめ載せておいた。

 このままホテルに着くまでに喜久が気づかなければと祈っていた。

 しかし、ホテルの手前で喜久が目覚めてしまった。

 当然何がなんだかわからない喜久。

「あらぁ、おめざめかしら。いまからお見合いに行って頂くから。助手席にお召し物がありますから、ホテルについてからお着替えなさって」

 いつもの上品な口調での言い方に喜久はすぐに言い返した。

「お見合いってなんなんだよ! そもそも俺は飯塚さんと一緒にいたはずだよ? なんで?」

 矢継ぎ早に質問してくる喜久に対し朝子は「いいから早くお召し物を」としか言わなかった。

 喜久は渋々従うことになり、脱出の機会を伺うことにした。


――今回のお見合いは家のこと関わりがある。

 羽岡家は医療器具メーカーのグループ会社を経営している。その中でも親会社のトップであるのが馨子の夫である。この家は井上家の医療器具にも関わりがあり、また親族の中に政治関係者がいる。

 朝子の夫である邦広くにひろは三年後の選挙出馬を目論んでいる。そのために人脈確保のために羽岡家と懇意にしたいという思いがある。

 そしてなにより私と親友の関係存続に繋がる。


 成立すると旧友と親族関係になれる。また頻繁に会える。

――その算段のつもりでいたのに。

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