第46話

拝啓

香子へ

立秋りっしゅうを過ぎても暑い日が続きますね。

お元気でいらっしゃいますか。


新しい学校には慣れましたでしょうか。

滝の森学園はお父様の知り合いが経営されている学校です、お父様の顔に泥を塗るような粗相そそうを決してなさってはいけません。

あなたは井上家の1人娘です。

決して井上家の名前に傷を付けるようなことをしないでください。

紫桜学院しおうがくいんに通っていたことを誇りに思ってください。

周りになんと言われようとも「上品な女性でいること」「お嬢様言葉を使う」ことを決して忘れないでください。


クローバーのネックレスをこの手紙と一緒に贈りましたが、届いたでしょうか。

私が大切にしていたものを香子に譲ろうと思いまして。

このペンダントを胸に私の無念を晴らして下さい。


クローバーの別名はご存知ですか。

白詰草しろつめくさと言いますの。


私は飯塚いいづか光咲みさきさんのことがどうしても許せません。

私の家族を奪った小野寺おのでら八重子やえこの娘である以上、末代まつだいまで因果応報いんがおうほうを受けてもらいたいのです。

飯塚いいづか明珠香あすかさんも小野寺八重子の血を引いているので、因果応報を受けるのは当然のことです。

特に光咲さんは今たいそう人気がある方なので、小野寺八重子のことを引き合いにして炎上させて、そのまま表舞台から消えて人生転落したら素晴らしいと思います。

それで明珠香さんが親と祖父母の件で嫌がらせを受けても残念ながら当然の報いでしょう。

小野寺八重子の血を引いてることを恨むしかないでしょう。


今、私は必要最低限以外の外出が禁止になっています。

近いうちに専門の病院に入院するかもしれません。

お父様の知り合いの病院です。

そうなると私は外に出ることや外部とのやり取りがますます厳しくなるでしょう。


だから代わりに香子が飯塚光咲さんと明珠香さんに復讐をして下さい。


敬具

井上朝子



香子は母から来た手紙を読んで呆れて言葉が出なかった。

自分達の地位を守ること、無関係者を巻き込んでまでの復讐をすることを悪びれないこと。

今度は自分の手を汚さずに私に飯塚親子へ復讐をして欲しいと。


もう私は操り人形じゃない!

この間の母の復讐に私の親友の志津子しづこを巻き込んだのだから。


これ以上私を巻き込まないで!


香子はダンボールに丁寧にクローバーのネックレスと手紙を戻した。

もう母の文章を読みたくない。


私は、私。なんとしてでも自分の人生は自分で決める!



――白詰草、花言葉は「復讐」


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お母様の復讐に巻き込まれたんですが、どうしましょう? 月見里ゆずる(やまなしゆずる) @nassyhato

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