第45話

親友とこうやって話しているときが一番楽しい。

 まだ新しい学校に馴染むのに時間がかかる。

 いつどこで母がしたことが周りにバレるか――それで周りの態度が変わったら?

 こんなことを考えている時点で私も自己保身じこほしんしか考えていない。

 母の復讐を知っていながら一部加担していたのだから。

 志津子のお見合いの件は本当に知らなかったが信じないだろう。


――親の因果が子に報いる。

もしそれが本当なら、私もいずれどこかで報いが来るだろう。


――でもそれを断ち切ることだって出来るはず!


こればかりは香子のこれからの日頃の行い・言動次第である。


「香子ちゃん、荷物届いてるわよー。入っていいかしら?」

「ええ、どうぞ」

 部屋のドアを開けると、つゆ子が小さめサイズのダンボールを一箱抱えていた。

「はい。これ荷物ね」

 つゆ子はダンボールを香子に渡してすぐに降りていった。

 差し出し人の名前を見たら朝子だった。

 香子はすぐにレターナイフでダンボールを開ける。


ダンボールの中には夏用の衣類、5教科の参考書――そして丁寧に包装された正方形の小箱が1つ。

香子は小箱を開けた。


中には金色に縁取りされている四葉のクローバーのペンダントと一通の手紙が同封されていた。


「たかねえ、俺のとこにお母さんから荷物きたんだけどさ……」

喜久が部屋に入ってきた。

「部屋に入る時は一声かけてくださいな」

香子の部屋のドアは開けっ放しだ。

「あっ、ごめん……」

喜久は香子にたしなめられてしゅんとする。

「私もお母様から来ましたわ」

「見てよ、俺のなんか参考書ばっかだよ……あれ」

向かいに喜久の部屋が見える。ドアを開けたままにしたのだろう。

香子の部屋から山積みになった参考書が見える。

遠回しにしっかり勉強しろと言っているのだろう。

「まぁ、私もですわ」

「それにしても、お母さんよく郵送できたよな。お父さんが外に出るなって言ってなかったっけ?」

「さぁ、わかりかねますわ」

朝子の看病しているのはお手伝いさんの橋本はしもと川井かわいである。多分この2人に頼んだのだろう。

「お父様は美味しいところだけとろうとするでしょうね」

「あの人ならあり得る」

「たかねえ、なんか小さい箱あるけどどうしたんだろう? 俺には来ていなかったんだけど」

「ペンダントが入ってましたの。四葉のクローバーの形をした」

「あれ? いつもお母さんが大切なときにつけているやつ」

「多分。そうですわ」

「なんでたかねえに?」

「心当たりないですわね……」

「俺には参考書の山と服だけでさ、たかねえにはネックレスがもれなくついてくるって地味に差別されてるじゃん……」

喜久が口を尖らせる。

「そうですわ。喜久にも他のを贈って下さればいいのに……あっ、後でおじいちゃまかおばあちゃまに頼めばよろしいわ」

と香子は名案を思い出したかのように、手をポンと叩く。

「その手があった。よし、俺は時計をお願いしよう。お父さんが知ったらキレそうだけど、もう知らないや!」

喜久は急ぎ足で祖父母がいる1階のリビングへ向かった。


香子は部屋のドアを音を立てないように閉める。

息をついて姿勢よく勉強机の椅子に座る。

これも子どもの頃から母に叩き込まれて染み付いた。


クローバーの絵が模様になっている縦書きの便箋びんせんだった。

万年筆で達筆に書かれているが、香子は難なく読み取ることができる。

幼稚園の頃から書道教室に通ってくずし字を学んできたからである。


――相変わらず字がお綺麗ですわ。お母様。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る