第16話
香子が案内した所は庭にある
ここは朝子が管理している建物である。鍵も朝子しか持っていない。
昔成績が悪かったり、母の思うようにならなかったりした時に閉じ込められた。
部屋の中は朝子の思い出の品が収納されている。
もちろん触ると母に怒られる。
閉じ込められた時は、早く出たい気持ちの方が強いので、触る余裕なんてない。
部屋が薄暗いので、怖さの方が増してくる。
「香子、この成績はなんですか? お父様になんと言えばいいのかしら……それに最近あなた塾にいる男の子と仲がよろしいって他のお母様から聞きましたわ。どういうことでして?」
「……あ、あの、それは……」
多分一緒に授業を受けている子のことを行っているのだろう。
隣に座っている男子だ。
彼は公立の小学校に通っているが、中学受験するために塾で難しいコースをいくつか掛け持ちをしているとかなんとか。
自分は小学校から女子校に通っているので、男子の話が新鮮だった。
女子と協力して運動会を盛り上げたとか、お泊りのイベントで好きな女子の話でもらがったなど。
流行りの漫画やゲームを少し教えてもらった。
私が知らない世界に彼は導いてくれる。
母にばれたら大変なことになるだろう。
案の定バレていたが。保護者ネットワークの恐ろしさを痛感した。
母は成績表を見てため息をついた。
「だいたいあなたには許嫁がいるのですよ。塾で異性に鼻伸ばしている場合ではないでしょう。あなたは井上家を背負う自覚があるのですか! これじゃぁ、許嫁の
小学校の時、塾で受けた全国統一模試の成績が振るわない時があった。
教室内で一位から五位に下がって、全国では三位から十位にさがっていた。
母は模試でも学校内でも最低三位内に入るべきと言っていた。
遊びたい盛りでも我慢して、塾とその他お稽古に通う日々を続けていたので、模試を受けた日には疲れがたまっていたのだと思う。
それでもやっていけたのは塾での異性とのコミュニケーションだったと思う。
「もう、嫌です!」
本当は同級生と一緒に放課後遊びたい。流行りのゲームをやってみたい。
毎日勉強とお稽古と家事の手伝いばかりで、小学生らしいことが何一つできない。
まるで古いお家の考えみたいで。
「何言ってますの? あなたは井上家に生まれた以上、跡取りとして背負わなければならないのです。これぐらいで弱音はいてるなんてはしたないですわ」
「わ、わたしは、ただ……」
涙が段々目元に溜まっていく。
「いいこと? うちはうち、よそはよそ。あなたは立派な淑女にならなければなりません。それでも私に言い訳をするつもりですか?」
もう、この人にいっても無駄だ。
勉強も家事も今まで以上に頑張るから!
許嫁に相応しい淑女になるから!
だから少しぐらい遊ぶ時間が欲しいの。
家の鍵は母の方針で持たせてもらえない。家にお手伝いさんがいるから必要ないからである。
「今日の模試の結果はお父様にご報告させていただきます。お父様が帰るまで、小屋で反省なさい」
お手伝いさん呼んで「香子をあの小屋に入れて反省させますから、決して開けないように」と母は告げた。
小屋に引きずられるよな形で連れられ、電気もつけられずに薄暗い闇の中に閉じ込められた。
小屋の中にあるものに気を留める余裕なんてない。
父になんていわれるのだろう。
母も厳しいが、父も結構厳しい。
二人共同じようなことを言う。
父も「由緒ある井上家の名前に恥じるようなことをするな。お母さんの言うことを黙って聞きなさい」と。
早くここから出たい。
塾から帰って、ご飯はおろか、飲み物も飲めない。
塾に持っていった水筒は家に帰る頃には空だったからない。
――お母様に対して言い返したのが悪かったのかしら。それ以上に塾で異性と話すのはよろしくなかったのかしら。
ふと目を見やると電気のスイッチがあった。
自分の背丈でギリギリ届くかどうか。
背伸びをしてスイッチをつけたら電気がついた。
明るくなった小屋は、心も明るくしてくれた。
小屋の中に母の思い出のものがある。
学生時代の賞状や卒業アルバム。
通っている学校の先生曰く「あなたのお母様は
模範生になるには、異性との付き合いも制限されるのか。
ただたんに普通の小学生になりたいのに。
それもできず、むしろ親の言うことに反発したら、このような小屋に閉じ込められる。
お母様ごめんなさい、ごめんなさい……!
洪水のように涙が頬を伝う。
小屋から出られたのは父が帰ってきてからだった。
閉じ込められて一時間。
そろそろ夜の十時前に迫ろうとしてた頃だった。
父にもこっぴどく叱られ、案の定母と同じことを言われた。
――お母さんを怒らせるようなことをするな。成績が下がったなんて井上家で恥ずかしくないのか!
私は両親の言うことにただただ黙って従うことに決めた。
そうじゃないと、私の心はズタズタだ。
小学校高学年で心に誓った。
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