第18話

「たかねえも一緒だったんか。僕がお見合いに無理やり連れて行かれた時も、朝子おばさんとやってたんか?」

「それはちがう」

 喜久の詰問に香子は間髪をいれず返した。


 志津子のお見合い相手が喜久であることは全然知らなかった。

「本当にお見合いの件はご存知なかったのです。私は母に渡されたお茶を明珠香さんと喜久にお渡ししただけです」

 そう、私は関係ない。母がやったのだから。


「朝子さん、一体うちの娘たちに何をお出したのです?」

 光咲が朝子に詰め寄って尋ねる。

「普通にお茶をお出ししただけですよ。あぁ、二回とも皆さんにお出ししたお茶の中に睡眠導入剤いれましたの」

 しれっと答える朝子。

 朝子は神経質な性格のため、長年不眠に悩まされていた。そのため毎晩睡眠薬を飲んでいた。

 

 香子をはじめ誰も気付かなかった。

 見た目は普通の黒烏龍茶だったから。

 

 一同は言葉を失った。

 朝子のやり口があんまりだったから。

 

 香子は親に薬を入れられただただ失望しかなかった。

 そして私は母に加担した。

 母にどうしてこのようなことをするのか聞いてたら?

 あのとき明珠香と秀清を起こしていたら?

 お見合いの件を阻止していれば?

 少しでも母に意見していたら?


 頭からたらればが離れない。

 なによりも秀清の同級生に傷つけたのだから。

 所詮は自己保身のいい子ちゃんに過ぎない私は、私は、私は。


「――ほんと意味分からん。全く理解できない」

 秀清の言い分に朝子以外が同意した。

「朝子さんの話をきいてたら反吐が出る。上品な皮かぶった人間のくずですよ? 子どもたち巻き込んで。これ以上娘に何かしたら、法的手段とりますけど。いや、いますぐにとりたい。おたくの旦那さんも話しとかないとですね」

 秀清は法的手段を取る気満々だった。

 同級生にこのようなことに詳しい人がいる。

「あらぁ、飯塚さん、法的手段ですって? そのようなことなさいますと、奥様の仕事に影響でますことよ。光咲さん最近テレビでご活躍されてるのでしょう? マスコミがやってくるのでは?」

 秀清はだまりこんだ。

「あぁそうそう、光咲さんのブログに誹謗中傷したのわたくしですの。だって、高校時代私の父を奪い取ったあばずれの娘が平穏な生活をしているのがお気に召さないですもの。それに事実ですし。ごめんあそばせ」


 ここ数週間光咲のブログのコメントに、匿名で過去のことを書かれていることが何度かあった。

 アイコンが四葉のクローバーであるのが特徴だった。

 本名も非公開でいたのに。

 一部の人間しか知りえないことをコメントに書き込みされていたのである。

 それを信じてしまった人がちらほら出てきている。

 ブログやコメントの書き込みをもとに卒業した学校など特定しようとする輩がでてきた。

 一週間前には「ファン」と名乗る女性が家にやってきて「不倫をされたのは本当ですか」と聞いてくる人がいた。すぐに追い返したが。

 SNSに飯塚家の自宅と家族を特定されていた上、光咲が高校時代に不倫していたことになっていた。

 あんまりにもひどいのと、このまま家族に影響でることを考え、法的手段をとることを検討していた。

 


 

 ――全ては飯塚光咲及び関係者を不幸に引きずり下ろすために。

 ――全ては因果応報を受けてもらうために。


 そのためなら人をつかってでも手段を問わなかった。

 家族が不貞行為をしたなら連帯責任にで不幸になってもらわないと。末代まで。

 子どもだろうと孫だろうと私にとっては関係ない。

 私の人生をめちゃくちゃにしてくれたんだから。


 ――だから今度はあなたたちが不幸になる番。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る