第29話 勇者さま御一行がやってきました その4

『くそっ!コイツ防御力が半端じゃないぞ!?気を抜くと弾かれる!!』

 

 迫ってくるマッドアントを一匹一匹斬り伏せていく勇者さまですが、態勢が悪いとその硬い外郭に弾かれてしまっています。

 

『ラッツ!関節か首を狙え!!もしくは目だ!!』

 

 騎士のロズさんは素早い動きで蟻の額にある単眼を、その細い剣で突き刺していきます。大きいとは言え全長50〜60センチほどです。頭は手のひらサイズくらいなので、そこについている小さな目を突き刺すのはかなりの正確さを必要とするはずです。

 大きい複眼を狙わないのは確実に脳を潰すためだと思いますが、流石は虫です。手足を落とされたくらいだと普通に動いてます。

 

 テトラの言う通り、僕が思ってる以上に厄介な相手なんでしょうね。

 

『わかってるよ!』

 

 前の敵を倒すと横、そして上と次々にマッドアントが襲いかかっているけど、勇者さまはその猛攻を剣技でなぎ払っています。討ち漏らした魔物が後方に回ったりもしてますが、ルーモスさんがきっちりと仕留めていきます。素晴らしい連携ですが、女性二人はちょっとパニック気味ですね。

 よっぽど虫が嫌いなようです。

 

『こないでぇぇええ!!ルーモス!右!みぎぃい!!!』

『左も来てます!!』

『うっさい!お前らも動けぇ!!』

 

 ルーモスさん、大変そうです。

 でも、かなりの数を倒したんじゃないですか?周りにはマッドアントの死体が山積みになりつつあります。

 動けなくなるのを避けるため、ジリジリと動きながら倒していっています。お上手です。

 しかしマッドアントは次から次へと湧いて出てきますね。あの巣に何匹入っていたんでしょうか?

 

「それにしても多いね。」

  

「そりゃあマッドアントの巣には千匹以上はいるだろうからな。あの者達の体力が持つかどうか。」

 

 千以上ですか、既に百匹は倒してるでしょうけど、まだまだ一割。物凄い数ですね。

 

『これじゃあ埒があかない。一気に行くぞ!!飛燕!!!』

 

 ラッツさんが声を荒げて剣を振るうと、たちまち前方のマッドアント達が凍りついていきます。凄い技ですね!

 一気に向かってくる数十匹を凍らせたんじゃないでしょうか?

 

『まだだ!次がくるぞ!!』

 

 ロズは態勢を整えて、マッドアントの中へと走り始めた。右手に持つレイピアを水平に持ち加速する。

 一気に常人の目に止まらぬ速度に至ると、向かってくるマッドアントめがけて高速の突きを繰り出した。

 

『雷牙!!』

 

 ロズの放った高速の突きは、雷撃を帯びながらマッドアントを貫いた。そして周りの蟻達を伝うように、バリバリと音を立てながら電撃がその後方へと広がって行く。

 まばゆい光と共に、前方にあったマッドアントの群れは黒焦げになった。

 

 

 なっ!?全く見えませんでした!!

 ロズさんがマッドアントに向かって走り始めて、危ないと思った瞬間。いきなりモニターからロズさんが消えました。

 目が眩むほどの眩しい光が起こったと思ったら、ロズさんが現れていてマッドアント達が地面に転がっています。

 

「み、見えなかった・・・。」

 

「テトの動体視力では目視は不可能だろうな。高速の突きに魔法かスキルで雷撃を乗せて貫いたのだ。

 その余波と電撃で後方の蟻達を一度に倒したのだ。」

 

 やっぱりテトラには見えるんですね、少し羨ましいです。

 

「テトラは全部見えてて面白そうだね。僕なんて大抵気づいたら敵が死んじゃってたりして、ちょっと置いてけぼりを食らってる気分だよ。」

 

 僕が弱いのが悪いんですよね。

 

「それなら、強くなるしかないな。」

 

 簡単に言ってくれますね。そんなので強くなれるなら、とっくに強くなってますよ。

 強くないから僕はこうやってチビチビと小銭稼ぎをしてるんじゃないですか。

 

「簡単にはいかないよ・・・。それに、僕には無理だって。」

 

「テトも努力さえすれば、彼奴らくらいにならなれるさ。」

 

 そうでしょうか?テトラからすれば彼ら程度と言う見方になるのかもしれませんが、僕からしたら彼等ですら超人なんですけど・・・。

 

『あらかた片付いたな。』

 

 モニターに映るマッドアントは、全て動かなくなっていました。

 凄いですね。あれだけの猛攻を防ぎきって、全て倒してしまうなんて。

 

『しかし、奥にはまだ控えているようだ。警戒を怠るなよ。』

 

 ラッツさんはパーティの気を緩めないよう念を押して、再び先頭を歩き始めました。

 たしかに見える限り敵の死骸は千もありません。その三割といったところでしょうか?

 

『もう虫は嫌よぉ・・・。』

『私もですぅ・・・。』

 

 ほんと、姉妹って聞いてから見てるとそっくりですよね。虫が苦手なのも一緒。

 お姉さんらしいリネルさんは、パッとみイケイケで虫なんて平気そうですけど。ギャップがあって魅力的です。

 妹のレネルさんも、ヒーラーらしくおしとやかな感じがして素敵です。

 

 五人は固まって奥へ進み始めましたが、直ぐに次の階段が見えてきました。どうやらマッドアントはもう襲っては来ないようです。

 もうすぐ次の階層へ直行ですね!!

 

『『どわぁぁぁ!!!』』

『『きゃぁあ!!』』


 階段を目の前にして、また落とし穴に引っかかっちゃいました。しかも気合いを入れて作った特大サイズです。

 すっかり忘れてましたよ。そう言えばあそこにも作ったんでした。

 なかなか這い出せない4mクラスのやつを・・・。でも、下はフカフカにしておいたので怪我は少ないはずです!

 

『また落とし穴かよ!!』

 

 ルーモスさん滅茶苦茶怒ってますね。怖いです。

 

『しかもさっきより深いな。まぁ、何とか出れるか。』

 

 ロズさんは上を見上げて冷静に分析していますね。こういうクールな人がパーティには必要なんでしょうね。

 

『まて、来るぞ!!!』

 

 ラッツさんが声を張り上げた途端、穴の入り口からマッドアントが群れをなして壁を降りてきました。

 これはまずいんじゃないでしょうか!逃げ場なんてないですよ!?

 

『この数は不味いぞ!レネル!!聖結界!!』

『はひぃぃいいい!!!!ホーリーフィールド!!』

 

 レネルさんが杖をかざすと、小さな半円の光が五人を包み込みました。これにどんな意味があるんでしょう!?

 

「あれは何!?」

  

 ハラハラと目一杯の罪悪感で、ついつい声を大きくしてテトラに問いただしてしまいました。

 

「あれは聖結界だ。魔物の侵入を拒む防護壁の様なものだな。」

 

 観ると、蟻達はその結界にぶつかってそれ以上近づいていきません。凄い魔法があるんですね!!

 無敵じゃないですか!

 

「それならやられることは無いよね!!」

 

 僕も興奮気味に鼻息を荒げます。僕の落とし穴で命を落とされるとか、絶対嫌ですもん。

 

「いや、そう長くは無いだろう。これを突破するのは無理だ。」

「え!?」


 む、無理ってなんですか!テトラの予感は大抵当たっちゃうんですから、そんな縁起でもない事を言わないでくださいよ!!

 

『もう無理だ!一旦ダンジョンを出るぞ!!リネル、脱出魔法!!』

『えぇ!私もこんな所に長い居たくないわ!!リルート!!!』

 

 脱出魔法?そんな便利なものがあるんですか!?

 ダンジョンの出口までひとっ飛びって事ですかね?それなら一先ず安心です。


『あれ!?発動しないわよ!?

 リルート!!!・・・・なんで!!?』

 

 あれ?


「ど、どう言う事ですか?」

 

 モニターを指差して、テトラに聞いてみます。レネルさんもパニックになっていますけど、僕もハラハラして大パニック状態です。


「ん〜。憶測でしかないが、ここがお前のスキルで作ったダンジョンだからではないか?

 お前は仮想空間だと言っていたから、通常のダンジョンとは違って帰還魔法が使えないのかも知れぬな。」

 

 ぼ、僕の作ったダンジョンだから魔法が効果を発揮しない!?

 それ、何かあったら完全に僕の所為じゃないですか!!?ど、どうしましょう!?

 

『も、もう持たないですよ・・・。』

 

 レネルさんも何を弱気になってるんです!!なんとか頑張って下さい!

 

「ど、どうしよ〜・・・・・。」

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