第42話 魔王さんがやって来た その5

『その白いオーラ、貴様ドラゴンか?』

 

 魔王はテトラを見て口を開いた。どうやらドラゴンの魔力については知っている様です。


『えぇ、ご覧の通りよ。』

 

 テトラは口元に笑みを浮かべて、真っ直ぐに相手を見つめています。ベスティさんがいなかったら顔をアップで映したいんですけど、今は流石にできません・・・。

 

『はっはっはっはっはっ!俺は何と運が良いのだ!!まさかドラゴンとはな!

 貴様らドラゴンは図体がでかい癖に中々姿を見せん。俺も相対するのは初めてだ。

 せっかくだ、望めば俺のペットにでもしてやろう。』


 魔王は嬉々として笑う。テトラに気後れしてはいない様だけど、相当な実力を持っているということでしょうか?

 やっぱり、テトラに行かせるべきではなかったんじゃ?

 

『弱い者が大口を叩くもんじゃないわよ?滑稽にしか映らないから。』

 

 テトラさん、それかなり挑発してますよ!?ほら!魔王の額に血管が浮かんでるじゃないですか!?

 相当怒ってますよ!

 

『俺を弱者呼ばわりか?貴様らドラゴンの実力がどれほどのものか知らんが、無事に逃げられると思うなよ!!」

 

 やっぱり滅茶苦茶怒ってますよ。大丈夫なんですか!?


『無駄口はいいから早くかかって来なさい。現実ってモノを教えてあげるわ。』

 

 テトラが言い切ると、魔王はモニターから突如として消えてしまいました。

 

 ドゴォォォォォ!!

 

 一瞬遅れてテトラ側のモニターから地面を揺さぶる様な大音量が響き渡ります。慌てて視線を移すと、テトラの顔に殴りかかる魔王と、片手でそれを止めているテトラの姿がありました。


『ほう、この速度を見切るか。』

 

『亀が歩いているかと思ったわよ?』

 

 魔王に対してなんでそんなに喧嘩腰なんですか!?それに、流石に亀は言い過ぎです。僕なんて全く見えなかったんですから。

 

『強がりを。俺は最速を極めし魔王ノルマーだぞ?次の速度について来られるかな?』

 

 魔王ノルマー、それが魔王の名前ですか。最速を極めし者と言う割にはなんだか遅そうな名前です。

 名は体を表すと言いますけど、本当に最速なんでしょうか?

 

『よし、少しだけ付き合ってあげるわ。』

 

 テトラは握った魔王の拳を手放すと、かかって来いとばかりに人差し指を立てて手招きしました。テトラって、こんな挑発的なキャラだったんですか?

 すごく優しいドラゴンっていうイメージしかなかったんですけど、なんだか戦い始めたテトラはいつもと違います。

 でも、これはこれで魅力的ではありますよね。強くて可愛い女性、ギャップがあるのも僕は好きですよ!

 ただ、僕にはそんな態度を取らないでほしいですけどね。

 

『ふん、では望み通り絶望を味あわせてやろう。』

 

 魔王は背中に背負っていた剣を抜き、仁王立ちになりました。あれが構えですか?とても素早く動き出しそうには見えませんね。

 僕が魔王の動きに注目していると、ガキン!と言う金属音がテトラのモニターから響きました。

 

 魔王はまだモニターに映っているけど、何があったのですか!?

 音に反応してテトラのモニターを見ると、そこには魔王が映っていました。

 

「えっ、なんで!?

 魔王が二人いる!?」

 

 確かに魔王がそれぞれのモニターに映っています。が、魔王側のモニターに映っていたモノは、次第に歪んで消えていきます。

 

「魔力を使用した残像だな。高速で動いた事で残った残像を、魔力を使ってその場に保持したのだろう。」

 

 ベスティさんが解説してくれます。なんでそんな事まで分かるんです?《解析》のスキルですかね?

 

『この初撃も見切るか。なるほどな、竜の鱗で防いだと言うわけか。しかし、これで終わりではないぞ!』

 

 見ると、テトラは魔王の斬撃を右腕で止めています。その腕の部分は黒い鱗で覆われていて、金属の様な輝きを放っている。

 

「素晴らしい!高速の剣を受け止めるほどの高硬度な鱗か。一体どの様な物質で出来ているのか、興味が尽きないぞ!!」

 

 ベスティさんはぶつぶつと独り言の様に呟きながら興奮している様です。ドラゴンなんて存在自体が探究心をくすぐりそうですもんね。

 研究者でない僕でさえ、色々と気になりますもん。

  

『もう諦めたら?』

 

 テトラは少し面倒くさそうです。出て行った時とは偉い心境の変化ですね。あんなに楽しそうに出て行ったのに。

 

『ほざけ!』

 

 魔王は怒声を上げて再び姿を消しました。今度は残像を残したりしていませんが、上から二人をを映し出しているモニターにはあちこちで土煙が上がっています。

 おそらく超高速で移動しているのでしょう。僕には全く見えないので、ただただ成り行きを見守っている他ないようです。

 

 テトラはそのまま立ち尽くし、動こうとする気配がありません。今のところ魔王の攻撃が全て防がれているので、最初ほどの心配は無くなりました。

 でも、ハラハラドキドキはどうしようもなく続いています。

 

『ハハハハハッ!これが音速を超えた最高速度だ!!貴様には見ることさえ叶わぬだろう。何もできぬままに倒されるがいい!』

 

 テトラはポリポリと頭を掻き始めました。

 多分、何かする気ですね。テトラって何かする前に頭を掻く癖があるんですよね。特に、もういいやって諦めたような時に多いです。

 

 どう動くのか期待して見ていると、テトラは何もない場所に向かってブンッと殴りかかりました。

 

『そんなもの、当たるわけは無いだろう!』

 

 魔王の声が何処からか聞こえてきます。どうやら外れたみたいですね。

 しかし、テトラ懲りずに拳を振るいます。何をしたいんでしょうか?

 

 ボゴォォォン!!!!

 

 突如鳴り響いた音と同時に、50メートルくらい離れたところの岩が砕けました。上空からのモニターの端に、しっかりと映っています。

 

『ぐはっ、な・・・何故・・・!?

 躱した・・・筈・・・・・・。』

 

 崩れた岩に魔王の姿がありました。全然見えませんでしたけど、テトラの攻撃がしっかりと当たっていた様です。

 魔王は立ち上がる事が出来ないのか、仰向けのまま身体が埋まっています。

 呆気なく、勝負がつきましたね。見えないから、面白さが激減でした・・・。

 

『拳だけ躱したって、ドラゴンの攻撃が避けれるわけ無いじゃない。まさか魔王種がここまで弱くなってるとは思わなかったわ。

 ガイザックが魔王をやってた時には、ここまで弱い奴なんて居なかったのに。』

 

 テトラは魔王の下へと歩み寄りながら、肩を落として喋り始めました。聞いたことないですけど、魔王ガイザックってどなたでしょう?

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