第5話 間違えちゃいました?
「おい、お前ら遅れるなよ!」
盗賊団の親玉と思われるオトコは一団の先頭に立ってダンジョンを進んで行った。
他の男たちに比べて一回り大きなその身体は、鍛えられた筋肉で盛り上がっている。
彼は名をルドガーと言った。
孤児院出身の彼は、口調は強圧的ではあるが仲間の面倒見は良かった。
ただ、この人数を養うために盗賊稼業に手を染めてしまっただけのこと。
盗賊団のリーダーとして、その威厳は守らなければならなかった。
今の彼を築いたのは、そんな彼の優しさの部分から来るものであった。
もっと権力を持っていれば、また別の違った道があっただろう。
そんな彼らはテトのダンジョンを進んでいく。
人数も多く、他のダンジョンでも生還したことのある彼らにとって、浅い階層など取るに足らないと言う自負があった。
一階層を難なく突破した彼らは、キラードッグの群れが待ち構える二階層へと到達した。
それぞれがある程度の実力を持っており、巷で暴れ回っているだけあって。
人数比の変わらないキラードッグの群れなどは敵ではなかった。
リーダーであるルドガーの指示のもと、安定した陣形をもって突破する。
少しの負傷を追うものもいたが、ダンジョンを進むのには支障にならない程度だった。
「ヨハン、鍛え方が足りんぞ!
帰ったら見躱し100本だ!」
「押忍!」
ルドガーは仲間の鍛錬を忘れない、それが自らの身を守る事に繋がるから。
ただ、それを伝えるには、彼は接し方を上手く知らなかった。
ただ、仲間たちは皆その事に気付いている。
だからこれ程の人間が彼の下に集ったのだ。
「おかしいな。黄金蟲の卵なんて何処にも見当たらんぞ?」
ルドガーは二階層の入り口からフロアを探して歩くが、一向にそれは見つからなかった。
それもそのはず、目的の物は既にテトが拾ってしまったのだから。
何処を探しても見つかるはずはない。
そんな姿を、テトとテトラはモニター越しに眺めていた。
〓〓〓
うわぁ、凄い!
あんなにいたキラードッグがどんどんやられていってる。
あっ!あぶない!!
盗賊団の一人にキラードッグの牙が迫っていた。
キラードッグが噛み付く瞬間、横から飛んできた石飛礫がキラードッグの右目を貫く。
キラードッグはその衝撃で頭を振るい、その牙が盗賊団を貫くことは無かった。
しかし、それでも苦し紛れに振り払った爪で一撃を加える。
キラードッグは床に転がり落ち、ヨロヨロと立ち上がったが、別の盗賊団のメンバーによって後ろから剣で斬られて崩れ落ちた。
テトにとって息つく暇のない攻防が繰り広げられている。
凄い!
あれだけの魔物を相手に一歩も引かないどころか、あっと言う間に全滅させてしまいました。
人数も最初の冒険者と比べると断然多いですが、それでも全員が強いのはよくわかります。
『ほう、あの盗賊の頭はしっかりと周りが見えておるな。
仲間の危機を素早く察知し、最短の動きで致命傷を避けた。
盗賊にしてはなかなかやりおるな。』
初めは何だかんだと言っていたテトラも、今は楽しそうにモニターを眺めています。
僕もモニター越しですが、こんな戦闘を見れてとても興奮しています。
一人がやられそうになって、それを救う仲間。
もう心臓バクバクです。
なんて事ない、ただお金儲けのために始めたダンジョン経営ですけど、すごく楽しくなってきました。
始めて正解です!
次はどんなスリル満点な戦いを見せてくれるんでしょう。
仮眠を取ったおかげで全然眠くないし、それに加えて今の戦闘で完全に目が覚めました。
目がギンギンです。
盗賊団を眺めていると、何やら倒れたキラードッグに近づいていきます。
何をするんでしょう?
皆さんナイフなんて取り出して、もう倒れてますよ?
って、あ!!
それは僕の仕事ですよ!!
盗賊団のメンバーは、ナイフを突き立ててキラードッグの爪や牙をもぎ取りはじめた。
『勿体無いから、しっかり頂いとけよ!』
ルドガーが部下らに命令し、手際よく素材となりそうな箇所を剥ぎ取っていく。
そうですよね、そう言う素材を欲しがる人だっていますよね。
僕の考えが浅はかでした。
でも、僕が集めた魔物なんですから、少しくらいおこぼれを下さい・・・。
でも、世の中そんなに甘くはありませんでした。
モニター越しに見る限り、キラードッグの素材は残ってなさそうです。
強い魔物の素材なら、それなりにお金になったのに。
『よし、さっさと進むぞ!』
一番大きな男の人の声で、全員先へと進み始めました。
そうです、確かにキラードッグの素材は残っていませんが、ダンジョンはまだまだこれからです。
その内手で持てない分は置いていってくれるはずです。
まだ二階層なんですから、ケチケチする必要もないです。
浅い階層は距離も短く、分かれ道も少ないので直ぐに六階層くらいまで進んでくれる事でしょう。
六階層からはトラップなんかも出てきますよ?
その前に、五階層には僕が捕まえた中ボスが待ってますけどね。
しっかり倒して頂かなければ。
あいつは大きかったから、素材も全部は持っていけないはずです。
二階層をクリアした盗賊達は三階層も軽々突破していった。
まぁ、ゴブリンとかスライムしかいませんしね。
あとは少数のキラードッグですか。
二階層を突破したなら簡単ですよね。
やっぱり、配置がおかしかったですね。
時折飛んでくる蝙蝠なんて、完全に無視されてますし。
『テトよ、わかっているかもしれないが、三階層以降の魔物が極端に弱いぞ。』
「うん、反省してます。」
ここは配置云々より、補充をしないとね。
そんな事を言ってるうちに、早々と四階層もクリアされちゃいました。
次は中ボスの待つ五階層です。
この階層は一本道を抜けると、中ボスの待つ広間へと繋がります。
『分かれ道が無いが、この階層は一本道なのか?』
「うん、ここは1回目の中ボスがいるんだ。
だから無理に迷路とかを作らずまっすぐな道にしたんだよ。」
変に体力を使わせて、負けられると見ていて嫌ですしね。
あんまりグロテスクなのはお断りです。
『なるほどな、見ているこっちも臨場感があっていい。
お、視界が開けるぞ?』
〓〓〓
「親方、このダンジョン何処まで続いてるんですかね?」
盗賊団の一人がルドガーの背中から不安を乗せて喋りかける。
「まだここで五階層だぞ?
少なくともまだ倍はあるだろう。
弱音を吐いてんじゃねぇぞ!」
「へい!」
仲間を鼓舞してルドガーは先頭を進んでいく。
細い一本道の通路を進むと、だんだんとひらけた景色が見えてくる。
そこには街の広場程もありそうな大きな空間が広がっており、真ん中に家程の大きさがある岩の様な丸い物が置かれていた。
その右奥には次の階層へと続く階段が見えている。
壁に張り付く光石のおかげで、足元が見える程度の照度が確保されていた。
「なんだありゃ?」
ルドガーはその大きな岩のような物を見上げて呟いた。
〓〓〓
『テト!?お前、あれを何処で見つけてきた!?』
ダンジョンに現れた大きな岩を見て、テトラが驚愕の声を上げる。
「何処って、テトラのいた山の麓でのしのし歩いてたのを見つけたんだ。
動きも遅かったし、簡単に落とし穴にはまってくれたよ?」
そう、あれは大きな亀さんです。
最初は大きくてビックリしたけど、動きも遅いし、真っ直ぐ進んでたから簡単に捕まえることが出来ました。
大きいけど、なんだか弱そうなので五階層のボスになって貰ったんです。
あの大きさなら他の階に逃げ出したりも出来ないですしね。
『テト、彼らは下手をすると全滅するぞ・・・。』
え?また僕配置を間違えちゃいました?
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