第6話 世間は広いですね
『あの魔物はストーンタートルだ!キラードッグとは比べ物にならない程強いぞ!?』
テトラがなんだか慌ててます。
ストーンタートルか、聞いたことないです。
「でも、盗賊達が負けるでしょうか?
そんなに強そうには見えなかったですけど。」
そんなに強いんですかね?
見た目は大きな亀だったんですけど。
それに、僕が捕まえる事が出来たくらいですよ?
テトラも大袈裟ですね。
僕みたいな一般人ならともかく、あの盗賊達が負けるほどでしょうか?
『テトよ、見た目では判断出来ぬ強さという物があるのだ。
もう手遅れなのだし、よく見ておくがいい。』
テトラに言われてもなかなかピンとこないので、僕はモニターを見守ることにした。
盗賊達はまだ岩の正体が亀だとはわかっていない様で、全員でゾロゾロと近寄って行きます。
その時、突然亀が動き出しました。
〓〓〓
「何だこりゃ?何もない癖にだだっ広いな。
何か隠してあるのかもしれん。」
ルドガーは先陣切って中央の岩へと近づいている。
他の子分達もそれに続いて岩の前に集まった。
「拍子抜けですね。
魔物一匹見あたりやせんぜ。」
子分の一人がルドガーに歩み寄る。
確かに見た目は何もない、広い空間が広がっているだけだ。
しかし、その中央に位置する物こそ彼らにとって最大の難所であった。
ストーンタートルはその名の通り岩の様に大きい亀だが、それだけと言うわけではない。
テトラが言った全滅と言う意味は、その巨大さによるものではないのだ。
と、巨大な岩の中に突然無数の目玉が現れた。
「なっ!?目玉!!!・・・・・・」
それを最初に見た子分は、その一言を最後に全く動かなくなってしまった。
死んだというより、そのままの姿勢で完全に固まってしまっている。
驚いた他の仲間たちも、岩に現れた目玉を見て途端にその動きを止める。
あっという間に、全ての盗賊達がその場で石化した。
彼らは、戦う前に全滅してしまったのだ。
全ては魔物に対する経験の少なさから来る油断が原因であった。
よく知る者が見れば、地面と岩との隙間にある歪な隙間に気付くことも出来ただろうし、岩に付いた不自然な甲羅の様な割れ目にも気づいただろう。
ストーンタートルの石化は、その目を直視する事で発生するが、接近していなければ効果はない。
それに気づいた時点で接近を避け、遠距離から攻撃をしていれば勝てない相手ではないのだ。
ただ、それを可能とする攻撃力を有していなければならないわけだが、彼らには既にそれを思案する事は出来なかった。
こうして、2組目の来客の進行は終わった。
〓〓〓
盗賊達が、一瞬にして石になっちゃいました。
なんですかそれ、反則じゃないですか?
なんで僕は無事だったんですか!?
「テトラ!何がどうなったの!?」
理解できない光景を前に、僕の頭の中は風車の様にカラカラと音を立てて、思考がループして混乱しっぱなしです。
『うむ、やはりこうなったか。
ストーンタートルは近づいたものをその目から発する魔力によって石化させる能力を持っているのだ。
近距離で直接その目を見る事は死を意味する。
彼らはそれを知らなかったのだな。』
そんな能力が・・・。
恐ろしいです。
僕はさっき出てきた目を見ていなかったので、何事もなかったわけですね。
落とし穴作戦、結果オーライです。
「そんな強すぎる魔物を五回層ってのは、間違いだったね。
場所を移動させようか。」
反省して、ストーンタートルをダンジョンの五階層ごと別の階と入れ替えよう。
『いや、このままでいい。』
テトラから意外な答えが返ってきた。
「なんで?強すぎるんじゃないの?」
『ストーンタートルがダンジョンにいた事には驚いたが、先ほど言った通り近づかなければ問題ないのだ。
知っているものなら遠距離を保って攻撃する。
動き自体は遅いから、情報さえ持っていればさほど危険は少ないのだ。』
なるほど〜。
そうやって倒すんですね。
勉強になります。
「でも、防御力も高そうだよ?
遠距離攻撃で倒せるものなの?」
これは知っておきたいですね。
『倒せるさ。
魔法でも可能だし、強い者なら弓ですら貫く事ができる。』
「弓で!!?」
世間は広いですね。
岩を貫くことができる弓使いがいるなんて。
僕には到底無理そうです。
「そうなんだ、なんか次元が違うなぁ。
世間で言う英雄って人達も、そんな凄い人達ばかりなんだろうね。」
改めてモニターを見て、自分のいる場所との違いを認識しました。
僕には絶対無理!
でも、あの人達どうしましょう?
盗賊とは言え流石に可哀想です。
「あの人達って、死んじゃったの?」
それとなく、テトラに聞いてみる。
別に全てが自分の所為と言うわけでは無いのだけど、他人事だと放っておけるような大きな心臓も持ち合わせていない。
死んでいるのなら、居た堪れない。
『いや、石化は状態異常だからな。
放っておけば回復するが、その内ストーンタートルに喰われるかもしれんな。
何しろ石を食べる魔物だからな。』
さらっと怖い事いいますね!
それ、ほっとけば死んじゃうって事ですよね!?
「駄目じゃん!何とか外に出してあげられないかな!?」
『まあ、それくらいは出来るが・・・。』
さっすがテトラ!頼りになります!!
「じゃあ、手伝って!」
それから僕らは盗賊達の元へと向かった。
テトラは人の姿で移動して、ダンジョンでドラゴンに戻りストーンタートルにブレフを吹きかけた。
テトラ曰く、魔物を眠らせる効果があるらしい。
ストーンタートルが大人しくなったのを確認して、盗賊達をテトラが運んでくれた。
僕が作った扉を潜って、ダンジョンの外まで移動させてくれたのだ。
この時は、石化中に崩れるといけないからと少女の姿で運んでくれた。
片手に一人の石像を軽々抱えて、一度に二人ずつ運ぶ姿はどこか異様だった。
僕も運べないか持ち上げてみたけど、ピクリとも動かなかったのだ。
可愛い少女がその細い腕で、100kg近くありそうな石像をひたすらに運び続けた。
テトラが全てを運び終えて、2人で管理室へと戻った。
今日は何も収穫が無かった。
残念です。
「キラードッグも倒されちゃったし、素材も剥ぎ取られて。
今日は赤字だ・・・。」
僕が落ち込んでいると、少女なテトラが袋を目の前に置いた。
そんな袋、持ってたっけ?
「ほら、そのキラードッグの素材だ。
それと、目ぼしいものはこっちの袋に入れてある。」
袋をもう一つ差し出して、僕の前に並べてくれた。
「テトラ・・・。」
「ふ、このくらいどうと言う事はないさ。
外まで運んでやった運賃として貰っておけ。」
テトラは照れた顔を隠す様に横を向いて、頭を搔いた。
「それ、泥棒だよ?」
「お前は無駄に真面目だな。これくらいケチケチするな!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます