第7話 滅茶苦茶可愛いです
盗賊達がダンジョン5階でゲームオーバーになった後は、深夜という事もあって他に来訪者は来ませんでした。
彼らのお陰で今日もおこぼれにありつけたので、僕は再び眠る事にした。
テトラはすでに、ドラゴンの姿に戻って丸まっています。
来訪を告げるアラームが鳴るからと、誰もいないモニターを覗くのはどうやらやめた様です。
管理室の天井に作った窓から差し込む朝日に起こされた。
どうやらいつもより眠ってしまった様ですね。深夜にモニタリングは楽しかったですけど、生活リズムが崩れそうです。
「おはようテト。よく眠っていたな。」
「おはよう。今日は珍しくドラゴンの姿じゃないんだね。」
テトラは人の姿でモニターの前に座っていた。ここにいるときは大体ドラゴンの姿をしていたのに、珍しいですね。
「あぁ、テトが人の姿の時の方が、嬉しそうな顔をするのでな。
別に苦痛なわけでもないし、こちらの姿でいようと思ったのだ。」
テトラは少し照れた様に、チラチラと此方を見ながら語った。
僕、そんなに嬉しそうな顔をしてましたかね?人でもドラゴンでも、テトラはテトラ。
そんなに区別してたつもりは無いんですけど。また気を遣わせちゃいましたね。
でも、
「嬉しいよ。テトラが気を遣ってくれて。
でも無理に人の姿じゃ無くていいんだよ?
確かに人の姿はステキだけど、テトラはテトラなんだから。」
そう、どっちもテトラなんですから。
ちょっぴり、人の姿の方がいいなぁとは思った事はありますけど、ちょっぴりですよ?ちょっぴり。
僕は女の子と付き合った事なんてないですから、少し緊張しますけど。
中身がテトラだから大丈夫です。
「テトは優しいな。」
そう言って、テトラは人の姿で始めて笑った。
人の悪を知らない様な純粋で無垢な笑顔は、その整った容姿も相乗して見る者を魅了する程の美しさだった。
不味いです!
滅茶苦茶可愛いです!!
これ、中身がテトラじゃなかったら後戻り出来ないほど好きになっちゃってますよ!?
テトラだとわかっていても惹かれてしまってますけどね。
破壊力、抜群です!!
「テト、どうした?」
「何でもない!」
見惚れてました。テトラ、可愛すぎですよ。
さて、今日はお客さんまだ来ないみたいですね。
「お客さん、いつきますかね?」
「どうだろうな?こればかりは我とて何とも言えんからな。」
いつ来るかわからないお客さん、もどかしいですけど、販売ルートの確保もしなくちゃいけません。
夜に動くつもりが昨夜はモニタリングしていて動けませんでしたし。
「はぁ、販売ルートの確保はいついけばいいんだろう。
お客さんが来たらモニタリングはしていたいし。暇が見つけられないよ。」
ついつい悩みが溢れ出してしまいました。でも、分かってもらいたいんです。
僕のこの葛藤を。
お金集めが目的で始めたダンジョン作りですけど、いざ始めると見ている事が楽しくて、つい最初の目的を忘れちゃいます。
「それなら、一旦ダンジョンの入り口を閉じれば良いのではないのか?」
・・・・・・・・・。
「ホントだね!!」
そうですよ、何で気づかなかったんですか!?早い段階でテトラに相談して良かったです。
そもそもルートを確保してからオープンすれば良かったんですけどね。
なるほど、たしかにその通りです。
「ただ、急に閉めると来た人が不審がりませんかね?」
「まだ開いて間もないのだから、そこまで人々に知れ渡ってはいないだろう。
やらねばならない事を早めにやってしまった方が、後々が楽だと思うぞ?
なんなら我が夜にでも送ってやろう。
流石に昼間は目立つからな。」
有難い提案です。テトラはどうしようもないくらい良い人、じゃなくてドラゴンです。
僕はテトラの言葉に甘えて、夜に販売ルートを確保する事にした。
日課として始めた腕立て伏せをした後、管理室をランニングしていたが、お客さんはやって来なかった。
こっそりダンジョンの入り口を覗いてみたけど、入り口に置いておいた盗賊団の石像はすっかり無くなっていた。
だから彼らが無事に帰ったのか、誰かに持っていかれたのかはわからなかった。
それでも人が来る気配がないので、夜まで寝る事にした。
もしかしたら、夜に来るかもしれないし。寝溜めしとこ。
「テト、そろそろ起きたらどうだ?」
んーーーーー?
テトラの声がする。
目を開けると、目の前に少女なテトラの顔があった。
「あわわわ!!
お、お、おはようテトラ!」
テトラとわかっていても、あんな美少女に顔を近づけられると取り乱してしまう。
「おはようと言うか、もう夜だがな。」
外を見ると確かに暗くなっている。
ぐっすり眠ってしまったようだ。
「ごめんね、寝すぎちゃった。」
テトラをほったらかして爆睡しちゃったのは申し訳ないです。
でも、ランプもブザーも無反応みたいだ。どうやら今日はお客さんは来なかったらしい。
「いや、それはいいのだ。
ただ、客も来ないのだからそろそろルートを確保する為に移動を開始した方がいいと思ってな。」
そうでした!
僕は急いでダンジョンの入り口を隠して、テトラとこっそり外へと這い出した。
周りを見るけど、特に人影も焚き火の明かりも見えません。
チャーーーーンス。
今のうちに颯と行きましょう。
「テトラ、よろしくね!」
テトラは人からドラゴンの姿へと戻り、僕はその背によじ登った。
これがもし少女の姿だったら、僕は大変な事をしているわけだよね。
想像が膨らんでいきそうになったが、頭を振って振り払った。
『では、しっかりと捕まっておくんだぞ?』
「うん!」
テトラが翼を広げ、少しずつ羽ばたき始める。
僕はフワッ、と浮かび上がる浮遊感を覚えた後、そのまま勢いよく上空へと昇っていった。
こわーーーーーい!!!
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