第53話 僕の楽しみ

『それにしても七階と変わって一気に広くなったな。でかい魔物でもいるのか?』

 

『でかい魔物って、あんまり変なこと言わないでよラッツ。そうじゃなくても虫の大群で心が折れそうだっていうのに。』

 

『すまんすまん。ま、マッドアントがまだ出ないとも限らないから、その点は気をつけてくれよ?』


『『ひぃ!』』

 

『ラッツ、あまり二人を怖がらせるな。

 それに二人も、いい加減虫だろうと魔物相手にひるむ様な真似はやめろ。

 パーティの足を引っ張るだけじゃなく、命を落としかねんぞ。』

 

 間に入ったロズさんがリネルさんとレネルさんに諭しています。みんなに厳しい人ですね。でも、言ってる事もわかります。

 全体を心配しての事でしょうし、ちゃんとパーティの事を考えてるんでしょうね。

  

『虫は無理なのよ!』


『ガッハッハッハッ!

 リネル、お前はそんな事を威張って言うな。ロズの言ってる事もわかるだろう。

 流石にあれ以上の魔物をお前ら抜きで闘うには俺たちも厳しいからな。

 ま、克服出来る様に頑張れや!』

 

 ルーモスさんが大笑いしながらリネルさんの肩を叩きました。やっぱり彼はこのチームのムードメーカーですね。

 少しピリッとしかけていた雰囲気が一気に解消された気がします。

 

『それくらいわかってるわよ!

 それでも簡単にはいかないのよ!!』

 

『それもわかってるさ。お前らがどうしようもない時は頼ればいい。俺たちは仲間なんだからな。』

 

 ルーモスさん、大人です。頼り甲斐がある人って憧れますよね。

 

『そんなにマジマジと言わなくても、ちゃんとわかってるわよ……もう。』

 

 リネルさんは眉を落としてますけど、仲間って素晴らしいと思います。ちゃんとお互いの事を考えてるのが素晴らしいですね。


『姉さんも私も皆さんを頼りにしてますけど、強くなれるように頑張りますよ。』

 

 レネルさんがルーモスさんの後ろから優しげな声でニッコリと言いました。ほんと、姉妹で性格がこうも違うとなんか不思議です。

 

『まて!何かいるぞ……。』

 

 ロズさんが声を上げて全員を制止しました。画面にはまだ何も映ってませんが、とうとうデスホーネットとの遭遇でしょうか?

 

「おぉ。とうとう新しい魔物の登場ね?さて、テトが何を配置したのか気になるわね。」

 

「ようやくだね。テトラには長々とお待たせしちゃったけど、ようやくの新ステージだ。

 十階層からは景色も変わっていくから、ラッツさんたちには頑張って貰いたいな。」

 

 テトラもようやく進んだステージを前に、画面近くまで椅子を移動してモニタリングの姿勢になってます。

 楽しんでくれてるのは素直に嬉しいですね。

 

「うん、期待してるわ。」

 

『この魔力の数は……。リネルとレネルには蟻に続いて苦難かもしれんな。』

 

『えぇっ!まさか、また虫なの!?』


『おそらくは……。』

 

 まだ視界に捉えたわけでもないのに、ロズさんには敵の事がいくらかわかっている様です。

 

『勘弁して〜!!!!』


『うぅ……む、虫は嫌ですけど、足を引っ張らない様に善処します……。』

 

「すごいね。魔力を感じただけで敵の種類まで分かるものなの?」

  

「すごいね〜。私なんて魔力すら感じ取れないけど。」

 

 レイジアさんも僕と同意見でうなずいてます。

 

「そうね。魔力も放つ魔物によって種類があるから、ある程度の見分けはつけることが出来るわよ。

 ただ、ほんの少しの違いでしかないから、彼が気づいたのは経験によるところが大きいんじゃないかしら?」

 

 テトラが画面を見ながら解説してくれます。


「でも虫かぁ。テトが配置しそうな虫って何かしら?

 マッドアントなんてモノを拾ってくるくらいだから中々想像し難いわね。」

 

「ふふふ。見てからのお楽しみだよ。」

  

 テトラ、凄く楽しそうです。

 そんなテトラを見るのが今の僕の楽しみの一つなのは間違い無いと思います。

 

『来るぞ!』

 

 画面の向こう側でラッツさんが叫びました。僕たちその動向を見守るべく、画面へ注目を集めました。

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