第31話 お帰りの後は、後片付けです
「本当にダンジョンの入り口・・・。
ありがとう!助かった・・・よ・・・?
あれ?」
ラッツが景色を確認してから横を見ると、そこに先ほどの若者の姿はなかった。それどころか自分の潜ってきた扉も無くなっている。
「彼は何処へ!?」
「え?何処って・・・アレ!?」
仲間たちも一緒になってその姿を探すが、若者は遂には見つからなかった。
「彼は一体何者だったんだ?」
「ロズ、お前が脅すから逃げたんじゃねぇのか?」
ルーモスが腕を組みながら、皮肉を持ってロズを見下ろした。ロズは苦虫を噛み潰した様な顔をして舌打ちをする。
「俺は!」
「まぁまぁお二人とも、こんな所で喧嘩はやめて下さいよ?せっかく無事に戻って来れたんですから、いらない怪我を増やさないで下さい。」
レネルが目を細めて和かに笑ったが、そこからは並々ならぬ殺気を感じた。二人はレネルの顔を見て黙る。
怒らせると最も質が悪いのは、他ならぬ彼女なのだから。両手を上げてルーモスも降参する。
「はいはい。なんもしねぇから怒るなよ。」
「なら良かったです。」
ニコリと笑って、レネルはもう一度周りを見回したが若者が帰ってくる気配はなかった。
「でも、気になるわね。私のリルートが発動しなかったのに、彼は全く違う能力で私達をここまで運んでくれた。
まさか、伝説の時空魔法だとでも言うの?」
リネルは起こった現象を解明しようと必死に思考を重ねるが、真なる答えには近づけなかった。
「もしかしたら、ダンジョンの守り神みたいな存在なのかもしれないな。」
説明の出来ない現象を、人は神の御業と幻想する。逆に良くない出来事を、悪魔の所業と片付けるが、それは人智の及ばぬが故。ラッツもその内の一人だった。
「そうかもしれませんね。兎に角、今日は一旦引き上げましょう。どうせ、またココには来るんでしょう?」
レネルが纏め上げて、勇者一行はダンジョンを後にした。斯くして、勇者を救った若者はダンジョンの守り神となったのだった。
〓〓〓
「テト、もうこれくらいでいいか?」
ダンジョンの七階層で、僕とテトラはマッドアントの素材を毟り取っています。僕、虫は平気なので牙やお尻から出る蜜をタップリと回収出来ました。
蜜の事はテトラに聞いたんですけど、半信半疑で舐めてみたら滅茶苦茶美味しいんです!この蜜をパンに塗って食べてみたいと思います。
そろそろ素材を売ってまともな食料をら買いに行きたいですね。木のみや魚も飽きてきた所です。
「うん、これくらいで十分だよ。というか、テトラ凄いね。そんなに持てるんだ・・・。」
ヘルダイバーを素材に、《クリエイト》のスキルで作った大きな網に、パンパンになるほど素材を詰めています。
牙や爪、触角に加えて、ヘルダイバーの蔓や球根みたいな本体もたっぷり詰まってます。テトラの5倍くらいに膨れ上がってますよ?
「このくらいはなんて事ないが?」
力持ちなのはわかりますけど、なんで持っている網が地面から浮き上がってるんですか?物理法則無視してません?
まぁテトラに常識を聞いても僕とは違うでしょうから、其処は突っ込まないでおきましょう。
それにしても、テトラの潤んだ瞳を見た時は心臓が止まるかと思いました。親父には女の子を泣かせるなって昔から言われてたけど、まず接する機会がないので無縁な言葉だと思ってましたけど。
こんなに胸が締め付けられるなんて・・・。もう絶対に同じ事をしないと心に決めました。
「じゃあ、一旦管理室に戻ろうか。」
あんな事があった後だからか、いつもと変わらないやり取りがとても新鮮に感じます。こういうのって、大事ですよね。
僕は扉を開いて、テトラを先に管理室に向かわせた。マッドアントが襲ってこない様に壁を作り変えてたので、帰る前に戻しておかないと。
テトラに蟻たちを眠らせてもらって落とし穴の修復は終わったのだけど、素材の回収は思ったより時間がかかる。
回収中に襲われたりしたら洒落にならないしね。
強度とか、色々心配だったけど。試しにテトラに思いっきり殴ってもらっても壊れなかった。
テトラ曰く、それは壁であって壁ではない様だとの事。言っている意味が全くわからなかった。
「恐らくだが、テトの作ったダンジョンの壁は空間を遮っているのではないか?
我も驚いたが、力押しの攻撃では破壊できない様だ。」
この説明で何となく、ぼんやりとだけど意味を理解出来た。確かに僕のスキルは仮想空間を作る事ができる。このダンジョンだって同じなんだから。
空間の壁を壊したところで、隣の部屋に繋がるわけじゃない。その先に何もないなら、壊す事も出来ないという事だ。
破壊するには空間を裂く様な能力が必要という事になるのかな?兎に角、壁によって空間の中に間仕切りを作り、空間を切り離せるみたいだ。
僕も、自分のスキルをまだまだ理解出来ないでいる。色々と試して早く使いこなせる様にならなくっちゃ。
「そろそろ素材を売りに行かないのか?」
管理室の隣に作った倉庫へと素材を運び入れながら、テトラが言った。
「僕もそろそろ売りに行かなきゃなって思ってたんだよね。」
来客が気になって、なかなか売りに行くタイミングが見つけられない。あんまりちょこちょこダンジョンを締めるのもどうかと思うし、かと言って来客の少ない夜にはお店も換金所も閉まっている。
どこかで思い切るしかないよね・・・。
「では、これから行かないか?」
「これから!?急だね。」
まだ昼にはなっていないですから、ついでに買い物をするには丁度いいかもしれませんけど、お客さん来たらどうしよう。
「お店は締めたくないですけど。」
「それなら心配ないだろう、先ほどの勇者達のお陰で大抵の魔物は死んでいる。歩き回っても七階層まで2時間近くはかかるのだから、その程度の時間はあるさ。」
そう言われてみれば、ストーンタートルやヘルダイバーも軒並みやられてますね。復活するまではある程度の時間がかかるでしょうし、少しくらい空けてても問題ないかもしれません。
テトラにダメ出しされたので、七階層の落とし穴は塞いでおきましたし。そこまでたどり着いたとしても最悪逃げ帰ってくれると思います。
「じゃあ、折角だし街に行こうか。」
商業都市サン・サンクロス。実は中に入るのを楽しみにしてたんですよね。
初めて行く場所って、ワクワクしますよね?それに、考えてもみてください。
これって、テトラとデートですよ!!!
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