第32話 サン・サンクロスへ行こう その1

 チラリと管理室から外の様子を窺う。サン・サンクロスに行くのはいいけど、出入りする時に人に見つかりたくはないですからね。

 作った窓から覗き見ましたけど、どうやら誰もいない様です。


「じゃ、行こっか。」

 

 テトラは素材の入った大きな袋を背負っています。網だと溢れちゃいそうだったので、作り直してみました。

 ただ、素材となっているのはヘルダイバーなので、緑色で少し不思議な感じです。

 あと、手にはストーンタートルの爪を持ってくれています。ほんと、力持ちで助かりますね。

 こんな少女に大荷物を背をわせるなんて、側から見たら虐待してると思われないでしょうか?

 僕は何も持っていませんし・・・。


「やっぱり、僕も何か持とうか?」

 

 どうにも罪悪感が湧いてきます。

 

「お前に持てそうな物があるのか?」

 

 テトラが持っているのは巨大な袋と、一つが数十キロもあるような巨大な爪です。痛いところを突きますね、言われた通り僕には無理です。

 爪なんて運べませんし、テトラの持っている袋から一部取り出したって意味ありませんしね。


「お前が無理する必要はない。さて、もたもたせずに行こうじゃないか。」

 

 なんだかテトラが張り切ってる見たいです。テトラも大きな街に行くのが楽しみなんですかね?

 仕方ないです。僕は力が無いのでしょうがないですよね。まだ倉庫にはいくつか素材が残ってますが、今回は今持っているのだけで十分でしょう。

 とりあえず街に向かいましょう。

 

「じゃあ、開けるね。」

 

 出入り口の向こう側を確認し、大きめの扉を開きました。テトラとそこをくぐり、そそくさと扉を閉じます。

 今日はいい天気ですね、お日様が眩しいです。街の近くに作った出入り口は、岩場の陰になっています。

 少しだけ歩きますが、近いもんです。

 

「楽しみだなぁ。」

 

 街に行くのがホントに楽しみで仕方ありません。思い切って出てきて良かったと思います。

 テトラに後押しされていなかったら、いつ来れたかわかりません。

 

「我も中へ入るのは初めてだからな、楽しみだよ。」

 

 前に入ったこと無いって言ってましたもんね。そもそも人の姿でこんな街に出歩くのも、大勢の人の中に行くのも初めてなんじゃ無いでしょうか?

 テトラは可愛いから、凄く注目されそうな気がします。

 可愛いけど、口調がね。女の子っぽく無いですけどね・・・。

 口調・・・・?

 

「あぁ!!!」

 

 そうですよ。こんな上からの口調、僕は構いませんけど他の人からしたらどうなんでしょうか?

 只でさえ美少女なテトラが、こんな喋り方。絶対おかしいですよ!

 

「急にどうしたのだ?」

 

 足を止めた僕に合わせてテトラも止まります。どうしましょうか・・・。

 恐らくテトラには喋り方の自覚なんてないでしょうし。ワザワザ強制するのもどうかと思いますけど、これから先の事を考えるとどうしても気になります。

 商談するにしたってテトラの可愛さと力は大きな武器です。できれば口調も直してもらえると尚良いんですが・・・。

 

「あのさ、言いにくいんだけど・・・。」

 

 そこまで言ったのに、声が詰まります。どう言えば・・・。

 

「なんだ?言いたいことがあるならハッキリと言えばいいだろう。

 我はお前の友なのだからな。」

 

「怒らないでよ?」

  

 こんな事言っても良いんでしょうか?喋り方が女の子っぽく無いなんて、それどころか・・・。

 

「構わんから言ってみろ。」

 

 僕も男です、イジイジせずに覚悟を決めましょう。


「あのさ・・・テトラの喋り口調って、女の子っぽく無いんだよね。僕は気にして無いんだけど、街の人たちが不審がると思うよ?

 女の子っぽく無いどころか、貴族のおじさんぽいし。」

 

 言っちゃった・・・。それもオブラートに包まずストレートに。怒んないでよ?絶対に怒んないでよ!!

 

「そ、そうなのか!?我が初めて会話した人間の喋り方を真似ていたのだが、女の子の喋り方とはコレと違うのか!?」

 

 テトラは持っていた爪をドスン落として、慌てふためく様に驚嘆している。怒るよりも、驚きが上回った様だ。

  

「最初に会話した人?」

 

 一体どんな人物なのでしょう・・・。

 

「昔低い丘の上に居座っていた時にな。そいつは黒いシルクハットを被って、大きな葉巻をくわえておったな。シツジと呼ばれる老人を連れて、馬車を引かせていた。

 我は思念で意思の疎通が出来たが故、会話はできたのだが、言葉自体はその者を真似て覚えたのだ。」

 

 ふむふむ、テトラは頭もいいですから、聞いただけで真似できちゃったのですか?それも信じられませんけど。


「聞く限り、貴族のおじさんだよね?」

「に、人間の標準な言葉では無かったのか・・・。」

 

 まさかテトラの喋り口調の根源がそんな所にあったなんて・・・。でも、聞いて真似できるなら直ぐにでも覚えられるんじゃ?

 

「さっき来ていた勇者パーティの女性とか、レイジアさんの口調を真似たり出来ないのかな?

 女性はあんな感じだよ?」

 

 三人とも若干タイプは違いましたけど、喋り方の共通点はあるはずです。


「そうか・・・やってみよう。その方が、女の子らしいのだな?」

「うん!」

 

 テトラは困ったような顔をしましたが、僕の顔を見て口を開きました。

 

「兎に角、早く街にい・・・行くわよ。

 こんな感じでい・・・いかしら?」


 可愛い!!!!

 なんでそんなに恥ずかしそうに言うんですか!!仕草も含めてパーフェクトです!

 外だけじゃなくて、いつもそんな感じでお願いしたいです。

 

「少しぎこちないけど、テトラは凄いね!そんなに直ぐ喋り方を治せるなんて!!」

 

「でも、ちょっと話にくい、わね。」

 

 テトラがずっとこんな喋り方になってしまうと、ますますドラゴンからかけ離れていっちゃいますね。

 

「テトラなら直ぐ慣れるんじゃないかな?」

 

 でも見た目と喋り方がマッチしただけで、余計に可愛く見えてくるのは仕方ないですよね?さっきまでとのギャップが大きすぎますもん。


 そして僕はテトラと一緒に、改めて街へと歩き出しました。

 早い事用事を済ませて、ダンジョンに戻らなくっちゃね。

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