第33話 サン・サンクロスへ行こう その2

 いや〜、賑やかですねぇ。

 大きな街は活気が全然違います。僕の故郷クルルス村なんかとは雲泥の差ですね。月とスッポン、テトラと僕くらいの差があります。

 

「すいません、素材の売却なんかはどこで出来ますかね?」

 

 大きな街なだけあって、街の入り口近くに案内所がありました。散歩がてら散策するのも良いですけど、ずっとテトラに荷物を持たせているのもどうかと思うので真っ直ぐやって来ました。

 やっぱり街に入って早々、周りの目線をすごく感じます。その殆どがテトラに集中してましたけど、コソコソと声が聞こえるんですよね。

 

「みて、奴隷かしら?あんなに大量の荷物を持たせて、人の所業とは思えないわ。」

 

 そんな事ないのに!!危惧してた通りの展開に、最早急ぎ足でやって来ましたよ。

 テトラは意に介さず、周りの景色や人の多さを楽しんでいる様でしたけど。僕にはそんな余裕はありませんでした。

 早く売ってしまいたいです。

  

「それでしたら、案内所を出て右にまっすぐ進むと突き当たりにございますよ。

 割と大きな品でも取り扱ってくれますので、大抵の素材は売却出来るかと思います。

 ベスティというお店です。目立ちますので、直ぐにわかると思いますよ。」

 

「ありがとうございます。行ってみます。」

 

 受付のお姉さんにお辞儀をして、店の外に待たせているテトラの所に戻ります。

 

「テトラ、おまたせ!」

 

 店の外に出てテトラに近寄ると、2人の男性がテトラの前に立っていました。何かあったんでしょうか?

 

「なんだお前、この子の連れか?」

 

 その一人が僕の前に立ってガンを飛ばしてきました。

 何を言ってるんですかこの人は?そっちこそ何なんですか?

 

「そうですけど、何か?」

 

 なんか不思議です。少し前の僕なら、こんな事を言われたら怯えてしまったと思います。でも、最近恐怖体験が多かったせいか全く怖くありません。

 それどころかなんかイラっとします。

 

「いや何、この子を食事に誘おうと思ってな。お前じゃ釣り合いそうにないから、俺に譲ってくれよ。」

 

 ニヤニヤと腹の立つ笑みを浮かべながら、僕に顔を近づけてきます。が、こんな輩は無視です。

 

「行こう、テトラ。」

「あぁ、そうだ・・・そうね。

 申し訳ないけど、貴方達も他を当たって頂戴ね。」

 

 テトラ、こういう時は言い直さなくても大丈夫だよ?だってこの人たちとはこれから関わる事なんて無いんだもん。

 

「なんだとこのアマ!下手に出てりゃぁ!!」

 

 ドゴッ!っと男の一人がテトラの顔を殴り飛ばした。が、テトラはピクリとも動かない。


「弱い癖に強がらないで?」

 

「な、何!?」


 テトラの冷たい視線が男へと突き刺さる。が、テトラは口を出すだけで何もしようとはしなかった。

 ダメージなんてこれっぽっちも無かったのだろう。特にやり返す事も無く無視をして歩き出した。

 でも、テトラが何とも思ってなくても僕はちょっと我慢できないです。

 

「よくもテトラを殴ったな!」

「テト?」

 

 女の子の顔を殴るなんて、許せません。テトラの代わりに僕の心が痛いです。

 

「おぉ?弱そうなのが俺とやんのか?」

 

 弱そう?テトラにダメージすら与えられない人に言われたく無いですね。確かに僕は弱いですけど、友達に手を出されて黙っているほど心が弱くは無いですよ?

 

「テトラ、この人たち、マッドアントの群れに勝てますかね?」

 

「そんなに強くは無いわね。・・・って、待て!お前は何を!?」

 

 やっぱり勝てないですか、それなら二人を招待してあげましょうかね。

 人を落とすのは初めてですけど、伊達に数多くの魔物を捕まえてきてないですよ?僕が捕まえられなかったのはテトラだけです。

 外からなら、何処からでも好きな階層に遅れるんですよ?


「地獄の蓋が、開きますよ?」


「あぁ?何言ってんだコラ!?」

 

 さよなら。テトラに手を出した事を、後悔したって遅いんですからね。

 

 《クリエイト》

 

 ドォォオオン!!!!

 

 僕が扉を開くと同時に、目の前から二人が消えた。しかし、穴に落ちたのでは無かった。

 目の前には腕を伸ばしきったテトラの姿。掌底を放った様な立ち姿と、靡く真紅の長髪が美しさを際立たせた。

 

 少し遅れて、30メートル以上先にあった建物の外壁に、大きな音を立てて二人の男がめり込んだ。どうやらテトラに救われた様だ。

 

「馬鹿者!お前が手を汚す必要なんかないのだ!!

 あの程度の攻撃、我にとっては蚊ほどでも無いのだぞ!!?」

 

 そうか、テトラは彼らじゃなくて、僕を救ってくれようとしたんですね。


「でも、腹が立ったんだよ・・・。」


 見た目や態度も嫌でしたけど、何よりテトラを殴った事が許せなかったんです。ごめんなさい、僕の黒い部分出ちゃいましたね。

 

「ん、我が早めに片付ければよかったな。すまぬな。でも、代わりに怒ってくれてうれしいよ。

 本当に、テトは無茶ばかりするなぁ。」

 

 テトラはいつの間にか下ろしていた荷物を拾い上げて、僕の横で微笑んでくれた。


「あの人達、大丈夫かな?」

 

 マッドアントの巣に落とそうとしていた僕が言うのも何ですが、テトラの笑顔を見て少し落ち着きました。大の男があれだけの距離を吹っ飛んで行ったんです。

 死んでるんじゃ無いですかね?

 

「加減はしたよ。まぁ、しばらくは動く事は出来んだろう。」

 

 そうですか、テトラが言うなら間違いないんでしょうね。しかし、あれだけの動きをしながら加減が出来るって、テトラの力の底が全くわかりません。

 勇者が来た時も全く動じていませんでしたし、一体どれほど強いんでしょうか?少しですけど、気になりますね。

 

「おい、男が二人壁にめり込んでるぞ!?」

「なんだ、喧嘩か?」

「女の子が吹っ飛ばしたらしいぞ!」

「んな馬鹿なぁ〜。」


 彼方此方で騒めきが起こり始めた。不味いです!これ以上騒ぎが大きくなる前に、さっさと用事を済ませましょう!!

 

「行こう、テトラ。」

「あぁ。」

 

 僕はテトラのどさくさに紛れて手を握って、ベスティというお店を目指して走り出した。女の子と手を繋いで走るって、ちょっと恥ずかしいけど憧れてました。

 相手はドラゴンですけど、とっても綺麗な女の子です。

 

 そう言えば、


「テトラ、口調が戻ってなかった?」


「あら、そうだったかしら?」

 

 シラを切るテトラも、可愛いです。

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