第34話 サン・サンクロスへ行こう その3

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・。」

 

 街中を走り抜けたら疲れました。走りながらテトラをチラチラ見てましたけど、こんだけ大きな荷物を持っているのに、誰にもぶつかる事なく上手に躱しながら走ってました。

 それに息もきれてません。テトラの一割でもいいからその運動能力を貰いたいです。

 

「ここなの?」

 

 テトラが立ち止まった僕の横で、少しズレた荷物を背負い直して看板を見上げます。


「そ・・・そうだよ。」

 

 息を整えながら答えを返しました。しかし、受付のお姉さんが言っていた通り目立った建物ですね。

 何屋さんなのか見た目ではさっぱりわかりません。

 いろんな色のペンキをぶちまけたような塗装。壁に付けられているのは花飾りや魔物の頭蓋骨、刀や防具。それに看板からは両脇に角が生えてます。

 派手と言うよりゴチャゴチャしすぎですね。でも、『何でも屋 ベスティ』って書いてあるから間違いないでしょう。

 

「あの看板はなんて書いてあるの?」

 

 テトラは角の生えた看板を指差して僕を見ます。もしかして、

 

「テトラって、文字は読めないの?」

「今まで必要なかったのよ。」

 

 ちょっと喋り方がスムーズになってますね。でも意外です。物知りなテトラは文字くらい当たり前に読めると思ってました。

 魔物は人の文字なんて使わない、よく考えたら当たり前なんですけど、テトラにその当たり前を当てはめていませんでしたね。

 ちゃんとテトラの事を理解していかないとね。

 

「そっか、それなら後で本を買おうよ。テトラの勉強の為に。

 それに、僕も本を読むのって好きだしさ。」

  

 どれほどの金額で売れるのかは検討もつきませんけど、本を買うくらいのお金にはなるでしょう。

 自給自足が続いてましたから、硬化なんて最近は見てもないですね。

 

「楽しみにしておくよ。」

 

 テトラ嬉しそうな笑顔を受け取って、僕らはこの奇妙なお店へと踏み込んだ。

 

「あっ・・・。」

 

 テトラが突然声を上げた。


「どうしたの?」

 

 振り返ってテトラの方を見たが、何となく察した。


「うん、袋が大きすぎて通れそうにないね。テトラはそこで待ってて。お店の人を連れてくるから。」

 

 背負っていた袋が入り口につっかえて、中に入る事が出来なかったのだ。案内所のお姉さんは大きなものでも取引してくれると言っていたけど、これじゃあ取引に行けないよ。

 案内するお店を間違えてるんじゃない?

 

「こんにちは〜。」

 

 少し不審に思いながらも、店内へと入った。外の雰囲気と同様に、中も色んな物で溢れかえっている。

 武器や防具、何に使うかわからないようなガラスに入った腕。カエルの干物にゴボゴボと泡をあげる液体の入った瓶。

 かと思えば、お土産のお菓子なんかも置いている。そんな物が所狭しと店の中を埋め尽くしていた。

 高く積み上げられた棚の隙間に、細っそりと人が通れる程度の道が空いている。

 

 その隙間をくぐって店内を進んでいくと、カウンターらしいテーブルが壁の近くに置いてあった。

 しかし、その周りにも沢山の物や本が積み上がっていて、余程営業をしている店とは思えなかった。

 

「こんにちは〜、誰かおられますか〜?」

 

 なるべく大きな声で叫んでみると、何処からか声が聞こえてきた。

 

「は〜い!ちょっと待っててね〜。」

 

 どうやら店の人のようだが、女性の声だ。物が溢れているので何処から反響してきたのかがわからない。

 

 ドドドドドッ!!

 

 突然右端の商品棚が崩れ落ちた。


「あいたたたた・・・・!」

 

 その崩れた商品に、一人の女性が埋まっている。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

 慌ててそちらへ駆け寄って、商品をそっと退けていく。

 何でそんな所で埋まってるんです!?ひょっとして、噂に聞くドジっ子ってやつですか?

 

 散乱した商品を退けていくと、白衣を羽織った女性が顔を出した。美しい黒髪を後ろで一つに纏めて、ポニーテールを作っている。メガネをかけた綺麗な人だった。

 

 このゴチャゴチャした店の人間には見えない。

 

「いや〜、助かったよ。逃げ出したシャドーフロッグを捕まえるのに必死でね。ついつい足を踏み外してしまった。」

 

 その女性は立ち上がり、パタパタと誇りを払いながら僕に言った。

 

「所で、ご用件は何かな?」

 

 そのまま何事も無かったかのような顔で続けた。

 逃げ出したシャドーフロッグを捕まえる?この店では一体何をやっているんですか?というか、そもそも生きた魔物を飼ってるんです?

 そして、やっぱりこの綺麗なお姉さんがここの店主なんでしょうか?

 

「貴方がこちらの店主ですか?」

 

 なんだか信じられず、つい質問してしまった。

 

「その通りだ。私がこの何でも屋の店主、ベスティだよ。」

 

 ベスティって、店主さんの名前だったんですか。安直な名前ですねぇ。

 でも、覚えやすくて良いです。シンプルなのは好きですよ。

 

「魔物の素材を買い取って貰いたいんですが。」

 

 外でテトラを待たせているから、早く用事を終わらせたい。

 

「承知した。それで、どんな素材だ?見せてくれ。」

 

 と、言われても、その為にはまず素材の所まで案内しないと。テトラが待ってますし、外へ着いてきて貰いましょう。

 

「大きすぎて持って入れませんでした。外にあるんですけど、着いてきて貰えますか?」

「おぉ、そんなに大きな物なのか!?どれ、早く行こう!」

 

 僕よりも先に、ベスティさんは外へと向かっていきました。

 あのぉ、商品を蹴飛ばしてますけど大丈夫なんですか?もしかしなくても、この人は変わり者なんではないでしょうか?

 

 

 

「素材はどこだぁ!!」

  

 外に出て早々にベスティさんは声を張り上げた。元気が良すぎます。

 突然声を張り上げるから、テトラもビクってなってるじゃないですか。

 

「テトラ、おまたせ。」

 

 よかった、今度は変な人に絡まれたりはしてないみたいです。でも、変な人を連れてきちゃいましたけどね・・・。

 

「テト、この人は?」

「あぁ、このお店の人。素材が見たいっていきなり走り出したからびっくりしたよ。」

 

 困惑しているテトラも新鮮で可愛いですね。


「おぉ、この中にあるのか!!その手に持っているのは何だ!?

 ん〜、よし、中へ入ってくれ!!」

 

 ベスティさんは、テトラの持っている素材を見るや興奮気味に言い放った。


「入るって、どうやって?」

 

 どう見ても通れないじゃないですか。だからわざわざここまで着いてきてもらった訳ですし。


「よく見ろ、ちゃんとココに書いてあるだろう!」

 

 指差した先には入り口に置いてあった狸のような置物。手招きするように二本立ちをしているおかしな彫刻だった。

 

「え?」

 

 よく見ると、お腹の所に文字が刻んである。

『大きな荷物は後ろへお回りください。by店主』

 

 いや、そんな所に書かれても気づきませんって。やっぱりこの人変わり者で間違いありません。


「なんて書いてあるの?」

  

 テトラに聞かれますが、なんか気が抜けてしまいました。すんなり買い取ってくれるんでしょうか?

 ダンジョンの事も気になるので、早くしたいんですけど。

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