第30話 勇者さま御一行がやってきました その5
勇者さま御一行の絶体絶命のピンチに、僕は今までで最も狼狽えていた。
レイジアさんの時もパニクってましたけど、勇者さまを殺したとあってはもう世間に顔向けができません。どんな顔をして親の前に姿を見せれば良いのでしょう!?
「大変だぁぁぁあああ・・・・・。」
僕が行って扉を作ってあげるしかないよね?出て行ってもいいよね!?あの結界のなかならとりあえず大丈夫そうだし、なんとかなるかも!!
「ちょっと行ってくる!!」
テトはパニックになりながら、冷静な思考は纏まらずに扉を作って飛び込んだ。
「ま、待て!!」
テトラの制止も間に合わず、テトはダンジョンへと入っていく。冷静に考えることが出来たなら、テトラに任せて敵を殲滅して貰えば安全に事は運んだはずだが、テトの思考はそこへ至る事をしなかった。
テトは移動と同時に扉を閉めた。管理室ではなく、ダンジョンの入り口に勇者のパーティーを送ろうと考えたのだ。
「なんて無茶をするんだ!テト!扉を開けるんだ!!」
テトラの懸命の叫びも、既に扉を閉めたテトに届く事は無かった。
「皆さん!早くこちらへ!!」
僕は勇者さま御一行の元へとすっ飛んだ。ダンジョンの入り口へとつながる扉を開いたけど、皆さん驚いて動けないでいます。
「だ、だれだお前!?どっから湧いて出た!?」
ルーモスさんも驚愕しています。そりゃあいきなり現れたら驚くと思いますけど、そんな事言ってる場合じゃありません。
「も、もう・・・ダメ・・・・。」
不味いです、レネルさんも既に限界が近そうです。くそ、こうなったら。
「クリエイト!」
咄嗟にダンジョンの構造を書き換えて、結果の内側に壁を作りました。
「とりあえず、これで大丈夫です。早くこの扉を潜ってください。」
「き、君は一体・・・。」
ラッツさんが構えていた剣を下ろして、目を見開いて呟きました。同時にレネルさんが後ろでへたり込みます。
「た、助かったぁ・・・。」
「虫はもう嫌よ・・・。」
リネルさんも一緒に呟きました。本当に虫がお嫌いなんですね。そしてモニターで見るより二人ともお綺麗です。
「僕の事なんていいので、とにかくダンジョンを出ましょう。」
皆さんが中々動いてくれないので、僕が扉を潜って先導しましょう。得体の知れない物だから躊躇してるんですかね?
「待て、貴様は何者だ。」
「ひぃ!!?」
突然僕の首筋に細い剣の背が当たりました。僕は足を止めて固まっちゃいます。
この剣って、ロズさん!?どうして!?
「ぼぼぼ、僕はテトと言いますぅ!!!」
なんで助けに来たのにこんな目に!?
僕なんか悪いことしましたか!?
・・・・・・って、僕の落とし穴が原因ですか。でも、こんな事をされる意味がわかんないですよ!!
「やめろロズ!少なくとも、彼は俺たちを助けてくれた。敵ではないだろう!!」
ラッツさん・・・。貴方は僕の味方なんですね。もっと言ってやってください!!
半泣きになりながら、テトは心の中でロズに対して悪態を吐く。ロズはラッツに止められ一旦は剣を下ろしたが、その目はテトを睨みつけたままだった。
ロズは突然現れた不審な若者に疑念を抱いていた。生死の境、生きる為に最善を考えていた思考を遮るように、テトはそれらを無視して余程考えつかない方法で自分たちを救ったのだ。
安堵と同時に緊張の糸が切れ、追いつかない思考と自分の不甲斐なさに苛立ちを覚えた。その矛先をテトに向けている事を、彼は自覚していない。
テトを敵とする事で、何とか平静を保とうとしていた。
「そうだぞロズ、お前はまたくだらん事を考えとるんだろう!生き延びたんだ、それを喜べ!!ガッハッハ!!」
ルーモスが豪快に笑ってロズの頭をがっしりと掴む。
「わかったから、やめろ。」
仲間の顔を見て、ロズはようやく冷静さを取り戻す。自分の不甲斐なさを認めて、テトと名乗った若者に剣を向けた事を恥じた。
「すまない。少し気が立っていたんだ。
許してくれ。」
ロズさんがようやく剣を納めてくれました。どうなる事かと思いましたが、兎に角僕が攻撃されなくてよかったです。
僕はこの人苦手かもです。目が怖い・・・。
「ありがとね。助かったわ。」
「ありがとございますぅ。」
「サンキューな、坊主!」
皆さんに口を揃えてお礼を言っていただきました。
「皆さんが無事で良かったです。さ、こちらへ。」
僕はダンジョンの入り口へと開いた扉を潜りました。五人も後に続きます。
全員が扉を潜った事を確認すると、僕は扉を閉めて自分だけ管理室に戻りました。こそっと帰ってきたので、別れの挨拶まではしませんでしたけど。
僕の正体を聞かれる前に逃げてきたわけです。
「ただいま〜。」
「お前は馬鹿か!何故我を連れて行かなかった!!危うく死ぬところだぞ!?」
テトラが鬼の形相で迫ってきます。
「なんでそんなに怒ってるの!?」
「お前が無茶ばかりするからだ!死んだら元も子もないのだぞ!?」
うまく言ったからそんなに怒らなくてもいいじゃないですか。心配してくれるのは嬉しいけど、過保護にし過ぎじゃないですか?
僕だってこれでも男です!やる時はやるんですよ?
「もし、お前が死んでしまったら・・・我はまた独りになるではないか・・・。」
凄んでいたテトラの顔が、哀情感を漂わせ始めた。
「て、テトラ?」
テトラは無言で、僕の胸に顔を押し付けてきました。いつも力強いテトラがとても儚く、か弱い少女のようです。
「ゴメンよ。テトラの事、考えてなかったよ。心配させてゴメン。」
しばらくそのまま、テトラの頭を撫でた。
「次やったら、許さぬぞ!!」
急に頭を離して、僕の顔を両手で掴んだテトラ。僕を睨みつけているその目は、ほんのりと潤んでいた。
「もうしない、約束するよ。」
テトラの顔があった僕の胸のあたりは、少し濡れていた気がする。
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