第17話 テトラの事が知りたいです
とあるダンジョンの中に設けられた大きな空間に、ポツンと一つ小さなモニターが設けられていた。
モニターにはダンジョンの入り口が映し出されているが、動かない壁や床が窺えるだけであった。
そのモニターに背を向けて、真紅の長い髪をした少女が膝を抱えて座っている。大人になりきらない幼さを残した、とても整った顔立ちで、白く長いワンピースを身につけている。
その少女の向かいには、同じ様に幼さをその顔に残した少年が寝そべっていた。
「テトラって、家族はいるの?」
少年は少女に問いかける。テトラと呼ばれた少女も、すぐにその問いに答えを返す。
「家族と呼べる者は、我にはいないな。テトよ、ドラゴンの出生について知っているか?」
テトラは少女らしからぬ口調で、少年に質問を返す。テトと呼ばれた少年は、口元に手を当てて質問の答えを探しだす。
「ドラゴンの出生かぁ。あまり考えた事もなかったけど、卵から生まれるんじゃないの?」
テトは自分の想像の範疇で返答するが、想像であるだけで全く知識は持っていなかった。テトラは予想していた様に、口元に笑みを浮かべて答えを返す。
「卵から生まれる事自体はあっている。だが、卵が作られる過程には二通りのパターンがあるのだ。」
テトラの事が知りたくて始まったお話、テトラは生まれから語り始めてくれました。でも、卵が作られる過程って、母親が作るんじゃないんですか?
「母親が産むんじゃないの?」
それ以外には特に考えられませんけど。他に何があるんでしょう。
「それはそうなんだがな。
通常では交尾によって卵を作るのだが、それ以外にも卵が出来る事があるのだ。」
こ、交尾ですか!?当たり前のように言ってますけど、聞いてるこっちが少し恥ずかしい気がします!!
でも、ドラゴンですし。そう、ドラゴンですし・・・。
「稀に、体外から吸収した魔力を元に卵を作る雌がいる。生まれ持った体質なのだろうな。
長い年月溜め込んだ魔力を卵に集めて、自らの魔力すらも殆どを卵に吸収される。
我の母親がそうだった。
我のが卵から生まれて、5年程で母は死んだよ。普通、ドラゴンは吸収した魔力を使って生きているため、不死に近い存在だ。
しかし、母は我に魔力を与え過ぎたのだ。
こんな生まれは、他に聞いた事がないからな。今地上にいるドラゴンでは、我くらいなのではないかと思う。」
「つまり、テトラにはお父さんがいないって事?」
どうしたらいいのでしょう、いきなり暗い話になっちゃいました。テトラ本人は普段と変わらない口調なんですが、数奇な生まれなんですね。
「そうなるな。だがお陰で、ドラゴンの中でも魔力量は相当多いのだぞ?
もう一人になったのは千年以上前のことだ、今更どう言う事もない。」
「でも、5歳で一人なんて・・・。
友達とか、いないんですか?」
ドラゴン自体の数が少ない事は知っていますが、千年以上も一人で生きていくなんて難しいと思います。
「知り合い程度の間柄が幾らかいる程度だな。5歳とはいえ、ドラゴンの初期成長は早い。すでに成体となっていたから、そこまで不便はなかったよ。
仲間達からは、変わった生まれの所為で受け入れては貰えなかったし、人間からは畏怖されていた。
たまにやってくる物好きな人間が、唯一の話し相手だったよ。最近は、そんな者も少なかったがな。」
そっか、ドラゴンにも色々大変な事があるんですね。強さゆえに畏怖される。
自分の責任ではなくとも仲間に入れてもらえない。人間と、どこか似ています。
僕にも、友達と呼べる人はいませんでした。村の同世代の子供も僕に興味がなかった様だし、僕も彼らに興味がなかった。
だから、僕の場合はそんなに寂しい想いはしませんでした。
テトラは、どんな気持ちで千年もの時を生きてきたのか、僕には想像できません。
でも、ただ一つ言える事があります。
「じゃあ、お互いが初めての友達なんだね。うれしいよ!」
「とも・・・だち?」
テトの無邪気さに、思わず言葉に言葉に詰まった。他人からプレゼントをもらった事も初めてだが、友と認められた事もこれが初めてだった。
「ち、違った!?」
友達だと思い込んでましたけど、僕の独りよがりでしたか!?なんか恥ずかしいし、残念です・・・。
そう思って僕は少し肩を落としたけど、テトラは僕から少し視線をはずし、斜め下を向いて静かに言った。
「い、いや。そうではない、その・・・我が友などと・・・か、構わぬのか?
い、嫌ではないか?我はドラゴンで、生まれも異端だ・・・。」
それはどこか、憂いを帯びた横顔だでした。そんな事、気にする訳がないのに。
テトラも、語り尽くせない事があるんですね。
「そんな事、気にする訳ないよ。
人食いドラゴン!とかだったら、怖くてビクビクしてるかもしれないけど、テトラはテトラでしょ?
それに、お互いの事を知り合えば、友達じゃない?それに、不安とか喜びを分かち合えれば、それは親友だよ。
それじゃダメ?」
なんて言ったら良いのかわからないですけど、僕はそれでいいと思ってます。
友達も親友もいませんでしたから。
初めての友達はテトラ、初めての親友もテトラになれば良いなって、そう思います。
「そうか、お前がそれで良いのなら、我は構わぬ。我らは友だ。」
僕らは晴れて、友達になりました。そして、本日2回目となるテトラの笑顔も頂きました。
可愛いです!
「しかしテトよ、人食いドラゴンなど存在はせぬぞ?」
「え!?いないの?」
急に真面目な顔をして、テトラは指を立てました。
「我らは魔力を糧に生きておる。食事など取らずとも死ぬ事はないのだ。
ましてや人を喰うなど、そんな仲間は見た事がない。」
魔力で生きてるんですか。でも、お伽話ではそう言うドラゴンが描かれてます。
実際、ドラゴンとは獰猛だと語り継がれてますし、大体の人はそう言う想像をしてますよ・・・でも。
「確かに、テトラってご飯たべないよね。」
このダンジョンに招いてから、テトラは食事を取っていません。
と、言う事は。
街で美味しいご飯をご馳走する僕の計画は、始める前から失敗してます!!
(気持ちを分かち合えれば親友か、人とドラゴン。我らは、そうなる事ができるだろうかな?)
テトラはそれを口には出さず、テトとの他愛無い話を、初めての友との会話をしばし楽しんだ。
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