第10話 全くもって理解できません

 ダンジョンを進んでいく騎士団はキラードッグの群れを物ともせず、あっという間に盗賊たちが敗北した五階層へとたどり着いた。

 

『全隊止まれぇえ!!!』

 

 金髪の騎士が怒声を響かせ、入り口付近で横に広がるように騎士団が静止した。

 その真ん中を優雅に進み、金髪の騎士は腰に掛けたつるぎを掴み引き抜いた。

 

『あれはストーンタートルだ!接近戦では確実に全滅する。魔導師達、前線にて集中砲火を浴びせてやれ!!』

 

 カッコいい!!

 威風堂々とした立ち振る舞い、男の子なら誰しも憧れるような理想の騎士像です!

 それに、テトラが言っていた通りの戦い方、やっぱりあぁ言う人は知識も持ち合わせているんですね。

 盗賊達の時にも思いましたけど、僕なら知らずに石になってます。

 あ、騎士団の中から10人程度が前に出てきました。

 それも等間隔で並んでます。あれだけの数がいますが、5、6人単位で一つの班を編成しているんでしょうか?

 

「テトラ、50人くらいで一つの纏まりになっているんじゃなくて、5人くらいの班編成が10組あるんですかね?」

 

 思った疑問をそのままテトラに投げかける。

 疑問を残しておくのはなんだかもどかしいですし、物知りなテトラならおしえてくれそうです。


「よく気がついたな。

 その通りだ、この騎士団の様に多人数で行動するときは、小隊を組んでいる事がほとんどだ。

 一つのリーダーにすべて任せてしまうと、細かい指揮が取れない。

 その為小隊にもそれぞれ小隊長を付けて、リーダーとなる騎士を補佐し、それぞれの隊に細かい指事を与えるのだ。

 これにより戦場での連携をより精度の高いものにできると言うわけだよ。」

 

 勉強になります。

 確かに一人で数十人もの部下の行動を把握するのは困難です。あの金髪の騎士が指揮を出し、それに応じて小隊長が自分の部隊数人を動かすのなら、それぞれの負担も軽減できそうです。

 だから、各小隊から魔導師となるひとが出てきたって訳ですね。

 等間隔に並んだ理由もよくわかりました。

 

 そんな質問をしている間に、魔導師達の総攻撃が始まってます。

 炎、雷、風に水。色んな魔法が飛んでいきます。色取り取りの花火みたいで綺麗ですけど、着弾点ではそんなこと言っていられない様な爆発や土煙が巻き起こっています。

 暫くして、一斉攻撃が終わりました。

 相当な数の魔法が直撃していましたから、おそらくストーンタートルも倒されたでしょう。

 でも、ちょっと複雑です。

 ストーンタートルもまた同じように発生してくれるでしょうか。

 

「恐らく、まだ終わってはおるまい。」

「え?流石にストーンタートルもやられてるんじゃ?」

 

 テトラから意外な言葉が飛び出しました。あれだけの魔法を受けて、倒れないなんて事があるのでしょうか?

 だんだんと土煙が、晴れてきました。

 本当に、ストーンタートルは生きているんでしょうか?

 テトラの言葉通り、そこにはストーンタートルが首を引っ込めた状態で佇んでいた。外郭は全く傷付いていない様だ。


『くっ、やはりウチの魔導師ではまだ威力が足りんか。しかたがない、俺が出よう。』

 

 金髪の騎士は握った剣を右手に構えて走り出した。

 それを見たテトはモニター越しに立ち上がる。

 

「だ、ダメだよ!石にさせられちゃう!!」

 

 しかし、そんなテトの言葉が騎士に届くことなど無く、騎士はそのまま勢いを増して突き進む。

 

「よく見ろテト、奴は目を瞑っているぞ。」

 

 テトラに言われてモニターを注視するが、騎士の動きが早くてよくわからない。

 テトにはそれを判別できるほどの視力は無かった。

 

 目を瞑ってる!?

 そんな事をして攻撃なんて出来るの!?

 全く見えない敵を相手に、何故そうやって立ち向かう事が出来るの!?

 

 テトには全てが理解できなかった。

 騎士の行動も、それを実行できる心までも、一般人であるテトには到底知ることの出来ない境地であった。

 

 大丈夫かな・・・。

 半端な魔法では全く通用しない様な相手に、剣一本で太刀打ちなんて出来るのだろうか。

 

 騎士が迫ってくるのを感じ取り、ストーンタートルは岩の中に無数の眼を開けた。

 しかし、目を瞑って突進する騎士にはその効果は発揮されることは無かった。

 騎士は敵が己の間合いに入った瞬間、消えた。

 

「き、消えた!!?」

 

 何処に行ったの!?

 さっきまでそこを走っていたのに!

 

「上だ。」

 

 テトラは騎士の動きが見えている様です。凄いですね。

 テトラに言われてストーンタートルの頭上あたりに意識を移したとき、大きな岩の外郭が縦に真っ二つに割れた。

 

「へっ?」

 

 僕は何が何だかわからずに、目を丸くして固まってしまいました。

 えーと、騎士が目を瞑って突っ込んで、突然消えたと思ったらいつの間にか敵が真っ二つ?どう言う原理でそんな事が起こるんですか!?

 全くもって理解できません!!

 でも、凄い人だって事だけはわかりました。あんな固そうな大岩を、あんな小さな剣で割る事が出来る人がいるんですね。

 本当に凄い!!

 

「やはり、あの騎士は相当な実力者だな。

 倒し方を口で言うのは簡単だが、倒すにはそれ相応の力がいる。

 ストーンタートルはその代表とも言える魔物だな。知識だけでも、力だけでも倒せない。

 ダンジョンの探索者を篩に掛けるには、ちょうど良いのかもしれん。」

 

 テトラが満足そうな表情でモニターを見つめています。

 そんな横顔も素敵ですよ。

 っと、テトラじゃ無くてモニター見なくちゃ。

 

 さぁ、とうとう五階層が突破されました。これから初登場の六階層です。

 ここからは、ちょっとだけダンジョンの仕様が変わりますよ!

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